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内部コンクールという改善の循環

 JA鹿本では、各地区で発行される手書き地区だよりを対象に、毎年「地区だよりコンクール」を実施している。このコンクールは、出来栄えを競うこと自体を目的としたものではなく、地区だよりの質を高め、次の改善につなげるための仕組みとして位置づけられている。

 審査には常勤役員や幹部職員が参加し、紙面構成や伝わりやすさ、内容の工夫などについて意見が交わされる。結果は順位づけで終わるのではなく、各地区にフィードバックされ、次回の地区だよりづくりに生かされていく。

 このプロセスによって、地区だよりは「出せば終わる」業務ではなく、どうすれば読みやすくなるのか、地域の特徴をどう表現するかといった視点が共有され、前年より一歩前に進むための工夫が促される。評価結果に対して悔しさをにじませる職員がいること自体、このコンクールが一定の緊張感と当事者意識を生んでいることを示している。

 一方で、この競争は個人を追い込むものではない。地区だよりは基本的にチームで作成され、改善点も「誰が悪いか」ではなく、「地区としてどう工夫するか」という形で受け止められる。競争が孤立を生まず、むしろ学習を促す方向に機能している点に、この仕組みの意義がある。

 さらに、コンクールを通じて評価の視点が言語化されること自体が、職員教育の一環となっている。レイアウトや情報量、写真やイラストの使い方、地域性の表現など、「良い広報とは何か」が具体的に示されることで、経験の浅い職員でも次に目指す方向が見えやすくなる。

 このように、内部コンクールは単なる表彰制度ではなく、競争と学習を組み合わせた改善循環を生み出す装置として機能している。手書き地区だよりという日常的な広報活動は、評価と振り返りを通じて少しずつ磨かれ、その積み重ねがJA鹿本の広報を下支えしている。

外にひらく広報、内をつなぐ広報

 JA鹿本の広報は、組合員だけを対象にしたものではない。地域全体との関係づくりを担う媒体として位置づけられているのが、地域住民向け広報誌「すきっぷ」である。

 「すきっぷ」は年2回、約1万4,500部を発行し、新聞折り込みで地域に配布されている。B5判・8ページの誌面は、JAを日常的に利用していない住民の目に留まることを意識し、明るい色調で「見て楽しい情報誌」として設計されている。ここで重視されているのは、詳しく説明すること以前に、まず手に取ってもらうことである。

 特徴的なのは、表紙と中面を連動させた構成である。表紙には旬の農畜産物を大胆に配置し、誌面をめくると、生産者インタビューや栽培の工夫、選果の工程、レシピ紹介などが続く。単なる宣伝ではなく、「この地域で、誰が、どのようにつくっているのか」を伝えることで、農業やJAになじみの薄い読者でも読み進めやすい内容となっている。

 例えばホオズキを特集した号では、鮮やかな写真で関心を引きつつ、生産者の思いや工夫を丁寧に紹介している。限られたページ数の中で、ミカンや米といった他の品目にも触れ、地域の農業全体が感じ取れる構成が工夫されている。

 重要なのは、「すきっぷ」が組合員向け広報の代替ではない点である。JA鹿本では、組合員向けには手書き地区だよりを手配りし、地域住民向けには新聞折り込みで「すきっぷ」を届けるという明確な2層構造をとっている。前者が顔の見える関係を深める媒体であるのに対し、後者は広く関心を喚起し、JAへの親近感を育てる役割を担っている。

 この2層構造によって、JA鹿本の広報は「内部の結束」と「外部への開放」を同時に成立させている。「すきっぷ」は、員外利用者や将来の担い手を含めた“JAファン”を地域に育てる回路として、手書き地区だよりとは異なる機能を果たしている。

地域住民向け広報誌「すきっぷ」を持つ原課長(左)、JA広報誌「かもと」を持つ冨田参事(中央)、手書き地区だより「きくかんもんだより」を持つ田中係長(右)(写真:筆者撮影)

日常から生まれるパブリシティー

 広報というと、目新しいイベントや話題性のある企画が想起されがちである。しかしJA鹿本の実践が示しているのは、単発の仕掛けではなく、日常の行動を継続することが信頼と注目を生むという点である。

 その象徴が、小学校へのスイカ寄贈である。この取り組みは36年以上にわたり、消費拡大や食農教育を目的として毎年続けられてきた。特別な演出はないが「毎年欠かさず行われている」ことが、地域にとっての信頼の蓄積となっている。

 こうした継続的な活動は、結果としてパブリシティーにもつながっている。令和6年には複数の新聞社・テレビ局から取材を受けた。メディアにとっても、継続性と地域性が明確な取り組みは、取材対象として認識されやすいからである。

 重要なのは、JA鹿本がメディア露出を目的化していない点である。活動が先にあり、広報はそれを必要な形で伝える手段にとどまっている。無理に話題をつくるのではなく、やっていることを淡々と伝える姿勢が、「日常的なパブリシティー」を成立させている。

 また、この外部発信は、地区だよりやコミュニティー誌といった内部の広報活動と切り離されていない。日常的に地域の取り組みを伝えているからこそ、外部への情報発信も特別な作業にならず、一本の流れとして機能している。

 イベントに頼らず、行動を続ける。その積み重ねの先に、自然な注目と信頼が生まれる。JA鹿本の実践は、パブリシティーを「仕掛けるもの」ではなく、「日常から立ち上がるもの」として捉え直す視点を示している。

地域密着型広報はJAの足腰をどう支えるか

 本稿で見てきたJA鹿本の広報実践は、単なる情報発信の工夫ではない。組合員や地域との関係を保ち、職員を育て、組織として動き続けるための基盤として機能している点に、その特徴がある。その基盤は、日々の広報活動を通じて、3つのかたちで具体化している。

 一つは、組合員との接点をつくり続ける仕組みである。手書き地区だよりを全職員で手配りすることで、JAは「用事があるときだけ訪ねる存在」ではなく、「毎月顔を合わせる存在」となる。定期的な訪問が前提となることで、JAと組合員の関係は、断続的な取引から継続的な関係へと変わっていく。

 もう一つは、職員自身が学ぶ仕組みである。地区だよりの作成や内部コンクールは、地域を見る視点や伝える力を、日常業務の中で育てている。植木地区にみられる営農センターと支所の若手職員同士の協働は、部署を超えた学習と連携が、広報を通じて生まれていることを示している。

 さらに、広報は組織として行動する経験を共有する場にもなっている。配布日に職員が一斉に地域へ出向くことで、広報は担当者任せの仕事ではなく、全職員が関わる組織行動として定着している。この経験の積み重ねが、組織としての一体感を支えている。

 こうした接点づくり、学習、行動が重なり合うことで、広報は「情報を伝える手段」を超え、JAの足腰を支える基盤となる。そのことを外部から可視化したのが、第38回JA広報大賞「地域密着型広報活動の部」優秀賞の受賞であった。派手な企画や新しいツールではなく、限られた体制のもと日常的な実践を積み重ねてきたことが評価された。

 JA鹿本の事例は、広報を「余裕があるときの周辺業務」ではなく、工夫次第でどのJAでも取り組みうる組織基盤強化の手段として捉え直す視点を与えている。

 広報は、情報を伝える仕事にとどまらず、関係を育て、学びを生み、組織の行動を支える基盤になり得ることを、この実践は示している。

阿高あや あたか・あや

福島県生まれ。福島大学大学院人間発達文化研究科、東京大学大学院学際情報学府修了。修士(地域文化、社会情報学)。2013年桜の聖母短期大学・助教、2014年地産地消ふくしまネット・特任研究員を経て、15年よりJC総研・副主任研究員、21年4月より現職。2025年4月より立教大学兼任講師、東京大学大学院情報学環客員研究員。

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