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地域の元気を生み出すJA

~2025年 2度目の国際協同組合年に向けて~

担い手と地域の課題を出向いて一つ一つ解決する
「担い手支援課」

福岡県 JAにじの取り組み
西井賢悟 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA)主任研究員 

 昨年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
 JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
 今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。

<福岡県:JAにじ>
 JAにじは福岡県の東南部に位置し、うきは市吉井町・浮羽町、久留米市田主丸たぬしまる町を管轄エリアとする。北は筑後川が流れ、南は耳納みのう連山を望む。年間平均気温は約16℃、年間平均降水量は約2,100mmで気象条件に恵まれている。地域農業はバラエティーに富んでおり、管内の平場地帯では米、麦、大豆に加え、トマト、イチゴなどの施設園芸が展開する一方、耳納連山の山麓部には柿、ぶどう、梨、キウイフルーツなどの果樹地帯が広がっている。

地域を挙げた有害鳥獣対策の仕組みづくり

 JAにじでは、2019年度に本店営農企画部内に「担い手支援課」を新設した。スタッフは課長を含めてわずか3人。この小さな部署に課せられた役割は、農家や農業を営む法人などの「担い手」のもとに出向き、それぞれが抱える課題の解決に向けて支援することである。もちろん、既存の営農部の各部署もこうした役割を果たしてきた。ただし、既存部署によるそれは、他の業務を含めた兼任の中での対応が常であり、担い手に出向いて課題解決に当たることに特化した部署の設置は初めてであった。

活況を呈した鳥獣害対策の研修会
捕獲技術を学ぶ捕獲講習会

 言うまでもなく、担い手が抱えている課題は多様である。そのため、担い手支援課による支援も多様なものとなっている。ここではまず、支援の一例として有害鳥獣対策の取り組みを見ていく。
 担い手支援課が設置されて間もない頃、担い手を訪問する中でよく聞かれたのは鳥獣害についてであった。管内の山麓部の地区を中心にイノシシの被害がかなり出ており、経済的な損失はもちろんのこと、担い手の営農意欲の低下や高齢の生産者が離農を早める要因になっている等の声が聞かれた。また、行政を通じて狩猟従事者へ駆除依頼しているが、同従事者も高齢化が進んでおり、駆除の拡大は難しいとのことだった。
 こうした状況を受け、担い手支援課では課題解決に向けた検討を始めた。まず、2019年秋に、県主催の鳥獣害対策に関する研修を受講。そこで、「地域ぐるみ」での鳥獣害対策の必要性を熱っぽく説く講師の教えに感銘を受け、2020年には同講師を招いた研修会を市と連携して開催。コロナ禍の開催であったが、感染対策に万全を期する中で120人の担い手や地域住民が参加するなど活況を呈した。
 この研修会を経て、担い手支援課では市とともに鳥獣害が深刻な6地区の自治協議会に対して「地域活動組織」の設立を働きかけた。同活動組織は狩猟免許を持つ人やわなの見回りをする人など、多くの地域住民が協力して鳥獣害対策に取り組むことを企図した「地域ぐるみ」組織である。2020年度においては、4地区が呼応して活動組織の発足に至った。
 その後も、担い手支援課では引き続き市と連携して支援に当たり、活動組織間の情報共有を図るための連絡協議会の設置、捕獲講習会や慰霊祭の開催、さらにJAグループ内の助成金を活用して捕獲に必要な機材(箱罠、電気とどめ刺し)の寄贈などを実施した。
 2022年3月には、飲食店経営の民間事業者によってジビエ加工施設が設置され、活動組織が捕獲したイノシシ等の処理、精肉加工、販売を地元で実施できる体制が構築された。同施設で生産されたジビエは、JAにじのファーマーズマーケット「耳納の里」でも販売されている。
 こうした中で、4地区の活動組織による捕獲実績は、2021年度がイノシシ94頭、シカ4頭であったのに対し、2022年度はイノシシ221頭、シカ5頭、その他55頭と拡大する傾向にある。また、活動組織が未設置であった2地区のうち、1地区については2023年9月に組織が設立され、もう1地区についても2024年秋の立ち上げめどが立っている。

出向いて課題解決する体制の変遷

 ところで、担い手支援課に配属されている3人のうち、課長を除く2人は「TACタック」と呼ばれている。TACはJAにじ固有の呼称ではなく、2008年度よりJAグループ全体で「地域農業の担い手に出向く担当者」の愛称として用いられているものである。TACのキャッチコピーは「Tとことん、A会って、Cコミュニケーション!!」であり、2022年度においては、181のJAにトータル1,448人のTACが置かれ、5万7,000人の担い手に対し、延べ45万8,000回の訪問活動が行われている(全農HP、https://www.zennoh.or.jp/tac/tac_02.html、2024.3.19時点より)。
 TACが設置されるようになった背景としては、日本農業全体の衰退傾向が顕著になる一方で、法人化を通じて経営発展を目指す農家、こだわりの技術・資材を用いた経営を展開する農家など、農業経営の多様化が進んだことが挙げられる。また、JAが広域合併して大型化し、さらに支店再編や職員削減などの経営合理化策が進められる中で、農家とJAの距離が物理的にも心理的にも広がってしまったことも挙げられるだろう。
 こうした中でJAが存在意義を発揮するには、農家一戸一戸に出向いて話を聞き、それぞれの実情に応じた支援を展開しなければならない。TACの役割はまさにこうした点にあり、前述のキャッチコピーはそれをよく表している。
 JAにじにおいても、前述のとおり担い手支援課の設置は2019年度であるが、訪問活動自体には早くから取り組んできている。具体的には、2006年度に本店営農部・営農企画課に「担い手係」を設置して同活動をスタート。ただし、課内の他の業務にも従事する兼務でのスタートであった。その後、全国と歩調を合わせ、担い手係はTACと呼ばれるようになり、配属先も2011年度には支店へ、2016年度には再び本店へと変更された。ただし配属先が変わっても、兼務であることには変わりはなかった。
 このような変遷をたどる中で、TACは担い手の課題解決に向けた努力を続けてきた。しかし一部の担い手からは、「自分のところには来たことがない」「何をやっているか分からない」等の声が聞かれるなど、十分な評価が得られたわけではなかった。当時をよく知る職員は、「集落営農組織の会計支援や交付金の申請事務などの兼務を抱えていると、どうしても訪問活動が後回しになることがあった」と述懐してくれた。
 こうした状況を打開し、本来のTAC業務に専念するために担い手支援課を新設することとなったのである。

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