文字サイズ

地域の元気を生み出すJA

第29回JA全国大会決議をふまえた全国各地の創意工夫ある取り組み

たくみの技と最先端技術でみかんづくりの未来を切りひら

JAみっかび(静岡県)の取り組み
西井賢悟 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA)基礎研究部 主任研究員 

 JAグループは、一昨年開催の第29回JA全国大会において「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」を決議し、令和5年はその実践2年目となります。食と農の未来、国消国産運動の推進、地域の元気づくり、農福連携など、消費者の皆さまにも身近に感じられるテーマについて、全国各地のJAの取り組みを紹介します。

<静岡県:JAみっかび>
 JAみっかびは、静岡県の西部、愛知県と接する浜松市北区・三ヶ日地区(旧三ヶ日町)を管轄エリアとする。同地区は浜名湖の北に隣接する猪鼻湖いのはなこを取り囲むように広がり、風光明媚めいびで全国有数の日照時間を誇る。人口は約1万3,000人。地区内を東西に走る天竜浜名湖線は東海道本線とつながり、東名高速道路のインターチェンジも設置されるなど、交通アクセスに優れている。産業は本稿で取り上げるみかんが有名である。

三ヶ日みかんがおいしいわけ

 ミカちゃんマークのみかんを手にしたことがある人は、かなりの数に上るのではないだろうか。同マークのみかんが、JAみっかびの組合員組織である「三ヶ日町柑橘かんきつ出荷組合」(通称マルエム)を通じて出荷されたみかんである。

 三ヶ日地区のみかん栽培の歴史は古く、江戸中期に同地区の山田弥右衛門やえもんが紀州那智地方から「紀州みかん」の苗木を持ち帰り、庭の片隅に植えたのが始まりとされている。それから約300年、同地区では幾多の困難を乗り越えながらみかん栽培が続けられてきている。
 現在、三ヶ日地区では毎年約3万tのみかんが生産されている。和歌山、愛媛に次ぐ生産規模を持つ静岡県において、県内生産量の3分の1を占めている。そしてミカちゃんマークのみかんといえば、「甘くておいしい」とのイメージを持つ人が多いことであろう。
 甘さの源である糖は光合成によって生み出されるが、それに欠かせないのが太陽の光である。同地区が位置する浜名湖の北側一帯は日照に恵まれ、その恩恵を享受するために日当たりの良い南側斜面にみかん園が広がっている。みかんが成熟する秋冬には「遠州の空っ風」が吹き下ろす。雨量が少なく朝霧もかかりにくいため、実が締まり味が濃くなるといわれている。

斜面に広がるみかん畑

 また、同地区の土質は赤石山脈のすそ、秩父古生層からなる赤土でミネラルを含んでいる。端的にいえば「やせた」土地である。しかしそれはみかん栽培にはうってつけで、肥料分を適切にコントロールすることにより、独特のコクを持つおいしいみかんに仕上げることが可能となる。
 三ヶ日みかんがおいしい理由は、こうした自然条件だけによるものではない。人の力も大きい。前述のマルエムには現在約750人の生産者が加入しており、栽培や出荷に関する厳格なルールを自らに課している。そして同組合を通じて、みかんづくりの知恵が脈々と受け継がれている。その一つが「貯蔵」技術である。

匠の技「貯蔵」でよりおいしいみかんへ

 三ヶ日みかんに舌鼓を打つことができるのは、11~4月上旬である。そこに至るまでに、生産者は2~3月の定植に始まって、余計な枝を落として適度に日が当たるようにする剪定せんてい、みかんにしっかりと栄養が行き届くようにするための摘果、さらには肥料散布や病害虫防除など数多くの作業をこなし、11~12月にようやく収穫を迎える。
 収穫を終えたらそれで生産者の作業は終わりではない。その後行われるのが「貯蔵」である。三ヶ日みかんの収穫は、例年霜が降りるクリスマス頃には終わる。にもかかわらず春になっても店頭に並ぶのは、生産者が収穫後のみかんを貯蔵しているためである。

「貯蔵」がおいしさを引き出す

 貯蔵によりみかんは熟成する。果肉中のクエン酸が分解されて酸のカドが取れ、水分が揮発し、味が濃厚になる。こうしてまろやかで芳醇ほうじゅん、甘み引き立つ「貯蔵みかん」が完成するのであるが、それには高い技術が求められる。
 まず、貯蔵に先立って「予措よそ」と呼ばれる作業が行われる。この作業は、収穫されたみかんを一定期間風にさらすことでみかんの水分を3~5%下げるものであり、果皮を締めて体質を高めることができる。
 その後、みかんは「ロジ」と呼ばれる専用の薄い木箱に入れて、貯蔵庫内に重ねて保管される。貯蔵庫は空気を循環させつつ温湿度を保つ構造になっており、目安は温度約8℃、湿度85%とされているが、貯蔵庫の特性に合った調整を要する。古くからある土壁の貯蔵庫では天井と床下に換気口が設けられ、早朝の換気や打ち水により温湿度をコントロールしている。こうした一連の作業は、まさに匠の技といえるものである。
 また、同地区の貯蔵みかんを語る上では、品種についても触れておく必要がある。同地区で貯蔵みかんに用いられているのは「青島温州うんしゅう」である。糖度が高いだけでなくコクがあり、丈夫な果皮を持つため貯蔵との相性に優れている。三ヶ日地区に青島温州が広まったのは1960年代で、以来この地の主力品種であり、三ヶ日みかんの代名詞となっている。

1 2
記事一覧ページへ戻る