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地域の元気を生み出すJA

〜第30回JA全国大会決議実践初年度を迎えて〜

組合員と共に地域農業の未来を築く

―JAきたみらいの取り組み―
小林元 一般社団法人 日本協同組合連携機構(JCA)常務理事

 2023年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
 JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
 今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。

1. 日本一の玉ねぎ産地を支えるJAきたみらい

 北海道の東に位置する北見盆地は、国内の玉ねぎの約2割を生産する日本一の玉ねぎ産地です。この日本一の玉ねぎ産地の農家を支えるJAきたみらいは、2003年にオホーツク管内の8JAが合併して設立されました。
 東西に広がるJAきたみらいの管内は、大雪山系を水源とする常呂ところ川が横断し、肥沃ひよくな大地が広がっています。この豊かな大地では、玉ねぎやじゃがいもを中心に、麦類や豆類、てんさいなどの畑作が盛んです。酪農をはじめとする畜産農家も多く、新鮮な生乳をはじめとしてさまざまな畜産物も生産されています。
 JAきたみらいの2024年度の販売品取扱高は麦類やてん菜などが約65億円、玉ねぎが約262億円、じゃがいもが約65億円、生乳など畜産物が約128億円で、合計約539億円と国内でもトップクラスの農畜産物を取り扱うJAです。
 このように、農業がたいへん盛んなJAきたみらいですが、地域農業を取り巻く課題は多くのJAが直面する課題と同じです。
 その一つは、地域農業を取り巻く環境が変化を続けていることです。温暖化など自然環境の変化は、産地に大きな影響を及ぼしています。農業生産者の高齢化や担い手の減少、労働力不足といった課題も深刻です。直近の物価高によって肥料・農薬や農業資材が高騰して、農業経営はさらに厳しい状況にあります。

玉ねぎを収穫している様子

2. 19の営農モデルを核とする地域農業振興方策

 JAきたみらいは、地域農業を取り巻く課題に対応して、2024年から「第6次地域農業振興方策・中期経営計画」(以下、振興方策)を策定、実施しました。
 振興方策は「所得増大」「地域共生」「担い手」「産地責任」「多面的機能」の5本の柱から構成されています。その表題は「『集えひとつに!!』食とみどりでつながる『みらい』のために」と、組合員が結集する協同組合らしいテーマかつ、未来志向のメッセージが込められています。
 振興方策で注目したい点は、「第6次農業所得目標~経営形態・規模別による10%UP~」です。「経営形態・規模別による」と掲げられるように、玉ねぎやじゃがいもなど耕種作物で15の営農モデル、酪農など畜産で4の営農モデルが提示されています。営農モデルとは、営農類型などとも呼ばれる経営モデルで、経営規模(経営面積)と作物の組み合わせによって得られる農業所得を指針としてモデル化したものです。
 一般的な営農類型は、米単作、もしくは米+野菜、米+果樹など複数の作物の組み合わせで策定されることが多いです。しかし、JAきたみらいの耕種作物の営農モデルは、輪作りんさくを前提とした畑作農業に特徴的なモデルとなっています。
 畑作では、輪作がたいせつな取り組みです。同じ畑に、同じ作物を続けて植え付けると土の力が弱まり、病害虫の発生などで著しく収量が減少してしまいます。これを連作障害と言います。連作障害を避けるために、数年ごとに栽培する作物を替えることを輪作と言います。畑作地帯の農業経営には計画的な輪作を欠かすことができません。
 JAきたみらいの管内では、圃場ほじょうごとに3年輪作(じゃがいも→小麦→てん菜)、もしくは4年輪作(じゃがいも→小麦→てん菜→豆類)が推奨されており、経営面積別に営農モデルが示されています。比較的に連作障害に強いと言われる玉ねぎの生産でも、てん菜や豆類を導入した輪作体系を営農モデルとして示しています。

3. 組合員の声を結集した農畜産物生産構造ビジョン

 振興方策に示された営農モデルは、2023年7月に策定された「JAきたみらい農畜産物生産構造ビジョン」(以下、ビジョン)を原点として策定されています。
 ビジョンの特徴は、組合員の声、組合員の話し合いから策定されていることです。ビジョンの策定は、まず集落単位に組合員が集まって、地域農業の課題を共有しました。組合員が集まる機会を生かして、JA職員が出向き、将来予測などを示しながら、組合員の話し合いを支えたそうです。
 集落単位の話し合いと同時に、組合員組織ごとの話し合いも進められました。JAきたみらいの生産者組織は作目別の「振興会」と呼ばれます。作目別の振興会には管内8地区ごとの振興会や、振興会青年部などの組織もあります。また、JAきたみらいの青年部や女性部、フレッシュミズもあります。これらの組織は150を超えますが、組織ごとに話し合いを行ったそうです。
 組合員の話し合いに加えて、正組合員農家全戸(875戸)を対象としたアンケートも実施しました。アンケートの特徴は、経営主だけではなく、後継者やパートナーもそれぞれ対象としている点です。「未来」を考えるビジョンですから、後継者やパートナーの声もたいせつです。この点は、多くのJAや農業組織などのアンケートに参考となる取り組みです。また、アンケートの回収率は96.8%と相当に高いです。この回収率は、組合員がJAと強く結びついていることを表していると言えるでしょう。
 そして、地域や組織での組合員の話し合いと、アンケート調査で得られた結果を材料として、ビジョンの原案が策定されました。ビジョンの特徴は、現状分析から将来の地域農業の姿を科学的に予測している点です。農業生産者の高齢化と担い手不足によって農家自体は減少することが予測されます。その一方で、離農した農家の農地を集めて大規模化する組合員もいるでしょう。こうした農業者の数の増減と農地の移動(流動化)を予測することで、今後のJAに求められている取り組みが明確になっています。
 取り組みの一つは、大規模化する組合員の農業経営をいかに支えるか、ということです。営農技術はもちろんのこと、販売にもより力を入れる必要があります。生産物を選別、保管、輸送する共同利用施設も大規模化と効率化が求められます。さらに、大規模化した農業経営を支えるためには、労働力の補完や経営の高度化なども求められます。
 こうした大規模化する組合員の農業経営を支える多様な取り組みを結集したものがビジョンに描かれ、振興方策に反映されました。この一連の策定の過程は、全て組合員が結集して、組合員の声から策定されており、協同組合の強みを生かした取り組みと言えます。

地区別懇談会の様子
玉ねぎの集出荷施設や小麦の乾燥調製施設などの共同利用施設も、大規模化と効率化が求められる

4. 組合員を支えるコントラクター事業

 JAきたみらいでは組合員の話し合い、組合員の声から、組合員の農業経営を支える新しい取り組みが次々と生まれています。ここでは、コントラクター事業を紹介しましょう。
 コントラクターとは、作業を請け負う組織を意味する言葉です。欧州やアメリカなどでは、酪農家は牛の管理と生乳生産に集中して、餌となる牧草の生産や農地の管理などはコントラクターと呼ばれる業者に委託して作業を分担しています。
 JAきたみらいのコントラクター事業は、大規模化する農家の労働力不足を解消することを目的に実施しています。組合員を対象に需要量を調査したところ、じゃがいもの収穫作業などで6割を超える組合員から要望があることが分かりました。
 コントラクター事業は、①じゃがいもの収穫作業と粗選あらせん(加工用じゃがいもの選別)、②GPSレベラーによる測量と施工、③融雪剤散布、④雪踏み(圧雪処理=圧雪することで土壌凍結をコントロールする技術)の4つの事業を実施しています。
 じゃがいもの収穫に活躍する農業機械は欧州のメーカーのポテトハーベスター2台で、約90haの収穫を担っています。大人の身長ほどあるタイヤに支えられた巨大な農業機械ですが、日本仕様にさまざまな工夫が凝らされています。欧州のじゃがいもと比べて、日本のじゃがいもは繊細で、落下すると打撲して傷んでしまいます。粗選の選果施設も同様で、じゃがいもの傷みを避けるためにショックを避けるさまざまな工夫が凝らされています。
 GPSレベラーによる測量と施工は、水田の均平作業で見られる作業ですが、JAきたみらいでは畑でも活躍しています。畑に凸凹があると、凹みに水がたまることで作物に悪影響が生じます。こうした凸凹を均平にして、かつ緩やかな傾斜をつけることで、畑の水の流れを制御することができます。GPSによる精密な測量によって、誤差±2cmの精度で作業することができるそうです。

ポテトハーベスター
GPSレベラー
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