地域の元気を生み出すJA
子会社で農地を守り、人を育てる
2023年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。
1. はじめに
JA東びわこの管内地域は、滋賀県の彦根市、愛荘町、豊郷町、甲良町、多賀町の1市4町で構成されています。管内では米・麦・大豆の2年3作の土地利用型農業が盛んです。現在は個別経営の農家の高齢化が急速に進み、農地が認定農業者や集落営農法人に集まる傾向が強まっています。
2007年の品目横断的経営安定対策を契機に全国で急増した集落営農法人は、約20年を経て担い手の高齢化や後継者不足が進み、存続が危ぶまれる状況にあります。この傾向はJA東びわこも例外ではありません。
こうした中、JA東びわこでは農地を引き受ける子会社の設立を通して、管内の農地の維持と今後の地域農業を担う人材の育成に取り組んでいます。
2. 株式会社JA東びわこアグリサービス誕生の経緯
2020年、湖東地域農業センターは管内58の集落営農法人のリーダーと構成員それぞれに対し、経営状況と今後の意向について尋ねるアンケート調査を行いました。
リーダーに対して行ったアンケートでは、各法人の役員は40%以上が70代以上であること、5年以内に安定した経営を続けることが難しくなると答えた法人が7割を超えることが分かりました。
一方で構成員へのアンケートでは、法人の経営継続が難しくなった場合、JAに農地の耕作を委託したいと回答した法人が3割以上に上りました。
この結果を受けて、彦根市と愛荘町にあったJAの子会社「(有)ホープひこね」「(有)アグセス愛知」を統合し、事業の範域を広げることが検討されました。
1995年に設立された2つの子会社は、経営継続が難しくなった個別農家から農地を引き受けてきました。JA東びわこは集落営農法人の農地も引き受けられる体制をつくるため、2021年8月~2023年3月にかけて「地域農業の継承と子会社の在り方にかかるプロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトでは、管内農業の現状や課題分析、2社の子会社の現状や課題、統合に向けたプロセスの検討が行われました。
その後も子会社統合の実現に向けて、2023年7月から11月には関係機関(滋賀県・彦根市・愛荘町・JA滋賀中央会・JA東びわこ)による検討会議が開かれました。
ここでの協議を経て、2024年4月1日、2つの子会社を統合した「株式会社JA東びわこアグリサービス」(以下(株)JA東びわこAS)が誕生しました。
3. (株)JA東びわこASによる集落営農法人の存続支援
2024年度時点で、(株)JA東びわこASは145haの農地を経営しています。この農地で水稲(みずかがみ、コシヒカリなど)、小麦(ふくさやか)、大豆(フクユタカ、ことゆたか)の生産に取り組んでいます。2025年度からは「みずかがみ」「きぬむすめ」の乾田直播栽培を1.8haで始めました。
この145haという規模は、合併前の2社が引き受けていた農地(約108ha)に、合併後新たに引き受けた農地を加えたものです。つまり、(株)JA東びわこASは誕生直後に約40haの農地を一気に引き受け、大幅に事業の範域を拡大したことになります。
農地を引き受ける際は、圃場の条件に応じてランク付けを行い、それに応じた地代を支払います。条件が極端に悪い農地は引き受けられない場合もありますが、基本的には引き受ける方針を採っています。今後の農地集約を見据え、条件不利地も含むある程度まとまった区画を引き受けるようにしています。
JA東びわこは(株)JA東びわこASを通じて、集落営農法人を存続させる仕組みづくりを目指しています。集落営農法人では、高齢になった個別農家が「自分の農地を預けたい」と申し出るため、毎年圃場が増えていました。しかし、一度農地を預けた人は草刈りなどの作業には参加しなくなることが多いです。そのため、法人だけで経営を続けていくのが難しくなっていました。
後述する子会社事務局が集落営農法人の役員と話を重ねたところ、「経営規模を縮小して経営可能な農地面積にしたい」という意向が示されました。そのため、(株)JA東びわこASが法人の農地の一部を引き受けることで、法人の負担を軽減することができました。
このように(株)JA東びわこASは、地域の人々が自ら農地を守り続けることを支援する役割を果たしています。
取材時は小麦の芽が出始めた頃でした
4. 子会社事務局の役割
農地の相談窓口は、JAの営農経済部にある子会社事務局です。事務局の担当者が集落営農法人のもとに出向き、要望を聞き取っています。子会社事務局は、「地域農業の継承と子会社の在り方にかかるプロジェクト」での検討内容を実現するための専任部署として2022年に新設されました。
子会社事務局では、子会社統合に向けた行政や関連機関との調整を担当してきました。また、統合後の子会社における就業規則などの整備も行っています。
新規就農者の確保に向けては、滋賀県内の農業大学校の学生を対象に(株)JA東びわこASの見学会を開催しています。さらに、管内の集落営農法人の状況や子会社への要望を把握するため、法人の役員を訪問したり、役員が集まる「集落営農法人連絡協議会」に参加したりしています。「何かあればいつでも相談に乗る」という姿勢で、現場の声を拾うことが子会社事務局の役割です。
ここで一つ疑問が湧くかもしれません。なぜ、農地を実際に引き受ける(株)JA東びわこASではなく、JAの部署である子会社事務局が集落営農法人の窓口となっているのでしょうか。これには、次のような重要な理由があります。
現在、(株)JA東びわこASは「管内の農地を守る」というJAの方針に沿って、まとまった一画を引き受けるようにしています。しかし、子会社の立場で法人の話を聞くと、どうしても自社の経営状況に基づいた判断をしてしまいがちです。そうなると条件不利地の引き受けが進まず、農地の荒廃につながってしまいます。
そこで、子会社事務局がJAの立場から対応しているのです。子会社の利益だけでなく、「地域の農地を守る」という視点を持って、集落営農法人と向き合っています。
現在、管内の集落営農法人は人手不足という課題を抱えつつも、「自分たちの農地は自分たちで守りたい」という思いを持っている場合が多いそうです。このような思いを尊重しながら、子会社事務局では各法人を訪問し、子会社にどのような支援を求めているのかを直接聞き取っています。
現在、法人から多く寄せられる要望は、「田植えや稲刈りの時期に人手を貸してほしい」という声です。しかし、子会社自身が145haの広大な農地を管理しており、それだけで多くの労働力が必要です。さらに、子会社の従業員の多くはまだ農作業の経験が浅く、一人前になるには時間がかかります。そのため、全ての要望に応えることは難しいのが現状です。
早く地域のニーズに十分に応えられるよう、従業員を育てることが(株)JA東びわこASの最重要課題となっています。後編では、同社における人材育成の仕組みについてご紹介します。