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地域の元気を生み出すJA

〜2025年 2度目の国際協同組合年に向けて〜

教育文化活動で組合員・地域住民の“心”をJAとつなぐ

―JAこうか「教育文化事業部」の取り組み―
西井賢悟 一般社団法人 日本協同組合連携機構(JCA)基礎研究部 主席研究員

 2023年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
 JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
 今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。

教育文化事業部のスタート

 2023年4月、JAこうかは「教育文化事業部」を設置した。その目的は、組合員数の減少、組合員同士や組合員と職員の関係の希薄化といった現状を打破して、同JAのキャッチフレーズである「笑顔はじける農業づくりと地域づくり」を実現することにある。
 メンバーは部長を含めて7人。主な業務は、くらしの活動の促進、組合員加入促進、女性組織の事務局、協同組合塾や農業祭への対応、広報業務などである。
 JAグループにおいては、組合員や組合員家族、地域住民などとの関係性を築くための活動を指して、「教育文化活動」という呼び名が定着している。
 同活動はJAや協同組合に関する理解を深めるための「教育・学習活動」、JAの事業や活動を広く知らせるための「情報・広報活動」、食や農をテーマに組合員・地域住民のニーズを具体化する「生活文化活動」、女性部をはじめとする「組合員組織の育成活動」の4つの活動からなる。教育文化事業部が担う業務は、まさにこの教育文化活動である。
 JAこうかでは、2020年度を「教育文化活動元年」と位置づけ、全役職員が組合員・地域住民とともに教育文化活動を実践すべく、「教育文化活動基本方針」を策定した。そして2023年度に、同活動の旗振り役として、従来の総合企画部くらしの活動課の機能を拡張して教育文化事業部を新設した。
 部の名称を教育文化「活動」部ではなく、教育文化「事業」部としたのは、ともすればJAの中で軽視されがちな教育文化活動が、営農・経済事業、信用事業、共済事業などと同様にJAの大切な取り組みの一つであることを強調するためである。また、そもそも全国のJAにおいて、「教育文化」を冠した部が設置されているのはまれである。
 このように、部の名称からもJAこうかが教育文化活動に力を入れようとしていることが強くうかがわれるのである。

「甲賀のゆめ丸ポイントカード」で組合員を増やす

 JAこうかは滋賀県の南東部に位置し、甲賀市・湖南市を管轄エリアとしている。「甲賀流忍者」「信楽焼」「東海道五十三次の宿場」などでよく知られている地域である。
 管内には鈴鹿山系に源を発する野洲川やすがわと、その支流である杣川そまがわが西流し、その沿岸には平野がひらけている。地域農業に目を向ければ、「近江米」の名で知られる米を中心に、各種の野菜や茶の生産などが活発に展開している。
 2023年度末において、組合員数は1万7,096人(正組合員5,647人、准組合員1万1,449人)、事業量は貯金残高1,749億円、長期共済保有高4,066億円、購買品取扱高14億円、販売品販売高33億円などとなっている。

表 組合員数の推移
資料:同JAの資料に基づき作成。
注:個人(団体除く)の推移を示している。

 さて、管内の人口は現在約14万人で緩やかな減少傾向にある。その中にあって、表に示されるとおり同JAにおいても2020年度から組合員総数が減少に転じ、その傾向は翌21年度、さらに22年度も続いた。
 こうした中で、2023年度に新設された教育文化事業部は組合員加入促進に取り組むこととなった。
 まず、全管理職を集めた会議において、組合員数が減少していることなど組織が弱体化の傾向にあることを共有するとともに、組合員拡大に組織を挙げて取り組むことを提起した。そして実際にどのように加入促進を進めるかについては、全中の総合ポイントシステムを利用した「甲賀のゆめ丸ポイントカード」会員に着目することとした。
 JAこうかでは、各種の事業を利用するとポイントがまり、そのポイントを直売所等での買い物の割引、JA商品券やカタログ商品との交換などに使えるポイントカードを導入している(写真1)。
 その会員数は、組合員数より多い2万8,907人である(2024年3月末時点)。つまり、ポイント会員の中には組合員になっていない人が多数存在している。その一方で、ポイント会員が組合員加入するとポイントが付与されるとともに、各種の事業を利用した際に付与されるポイントが2倍になる仕組みとなっている。
 そこで教育文化事業部では、ポイントカードのヘビーユーザーでありながら組合員になっていない会員に対して組合員加入の働きかけを行うこととした。幸いにも、同JAでは毎月1回、全正職員が手分けをして組合員宅に広報紙等を届ける訪問活動を行っている。この機会を活用して実際の働きかけを行うこととした。
 その結果、表に示されるとおり2023年度は組合員総数が増加に転じている。2024年度も同様の加入促進を継続しており、さらに金融部では金利の優遇を梃子てことする加入促進を図るなど、各事業部による独自の加入促進も見られるようになっている。
 これらの結果、組合員の増加傾向は続いており、2024年12月末時点で、前年度末に比べて組合員総数は251人増えている。

写真1 甲賀のゆめ丸ポイントカード
注:これ以外にも2種類のカードがある。

新規組合員との関係を強化する「知っとくツアー」

 組合員加入は、言ってみればJAとの付き合いのはじまりを意味する。その付き合いを深めるために何をすればよいのか、このことに悩んでいるJAは少なくないだろう。
 JAこうかでは、2024年度に新規組合員を対象とする「知っとくツアー」を企画した。同ツアーは6~12月にかけての全5回で構成され、農産物直売所やカントリーエレベーターの見学、そして毎回耳寄りの情報や地元の旬の農産物等がお土産として付いてくる、楽しくJAを体感できる内容となっている。
 しかし、ふたを開ければ募集に応じたのは8人しかおらず、催行中止となった。教育文化事業部では、人が集まらなかった要因として、5回の日程に時間を割くのが難しかったことを挙げている。新規組合員の多くはシニア世代である。今日のシニアは、勤めの第一線からは退いたとしても何らかの仕事を持ち、趣味・付き合いなどにも忙しい。
 催行中止となったが、失敗にめげないのが教育文化事業部である。5回のシリーズでは難しくても、1回ごとの単発の「知っとくツアー」ならばうまくいくのではないかと考え、実際に8月に20人の新規組合員を集めて開催にこぎ着けている。ツアーを通じてJAに触れ、そして何より職員と活発なコミュニケーションを交わしたことにより、JAとの関係を深める第一歩になったと考えている。

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