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食・農・地域の未来とJA

日本の食・農・地域の将来についての有識者メッセージ

日常と非常時をつなぐ食
~災害時こそ国産食材で支える~

今泉マユ子 管理栄養士、防災士、株式会社オフィスRM代表取締役

はじめに

 月刊誌『家の光』2017年3月号の特集「防災のアイデア30」で、災害食やポリ袋調理を紹介したことがご縁となり、全国のJAで在宅避難の備えや災害食について講演する機会をいただいています。JA女性組織の皆様、JAの皆様、素晴らしいご縁をありがとうございます。「また話を聞きたい」とリピートでお招きいただくこともあり、私のお話が少しでもお役に立てているなら、これほどうれしいことはありません。

能登半島地震で被災された方のお話を伺って

 2024年1月1日に発生した能登半島地震で被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
 同年9月17日、「第6回石川県家の光大会・令和6年度JA女性組織リーダー・事務局研修会」にて、「在宅避難の備え~食と防災~」と題し、90分間の講演をさせていただきました。能登半島地震で被災された方々に何をお伝えできるだろうかと考え、講演の前日にはJA⽯川県⼥性組織協議会をはじめ県内の方々にご案内いただき、被災地を訪れました。この場をお借りして、心より感謝申し上げます。
 道路の陥没や液状化、建物の倒壊、珠洲市見附島(別名 軍艦島)の崩壊、輪島朝市通りの火災跡――。あまりの惨状に、言葉を失い、涙が止まりませんでした。さらに珠洲市と輪島市で被災された方々のお話を伺い、報道だけでは決して分からない現実があることを痛感しました。
 「自宅は半壊したけれど、避難所から戻って生活した」という方に「断水時はどうされたのですか?」と尋ねると、「雪を溶かしてなんとかしのいだ」とのことでした。「やっぱり自分の家が一番いい」とおっしゃっていたのが印象的で、どんな状況でも自宅で過ごせるよう備えることの大切さを、改めて実感しました。
 一方で、避難所での生活についてもお話を伺いました。特に、地域のコミュニティが機能していた避難所では、皆が協力し合い、食べ物を持ち寄り、大変な状況を乗り越えられたというお話が心に残りました。普段からの地域のつながりが防災のカギを握ることを、改めて痛感しました。

珠洲市内(2024.9.16)

輪島に向かう途中 液状化で飛び出たマンホール(2024.9.16)

在宅避難の備えは「フェーズフリー」で

 近年、多くの自治体が「在宅避難」を推奨しています。ストレス軽減やプライバシー確保のため、またペットのことを考えると避難所に行きづらい方も少なくないと思います。自宅が倒壊したり、火災などの被害を受けたりした場合は避難が必要ですが、そうした危険がなければ、必ずしも避難所へ行く必要はありません。自宅周辺に危険がなく、家の中が安全で、十分な備えがあれば、在宅避難は可能です。
 災害時、最も大切なのは命を守ること。そのためには家の耐震補強や家具の転倒・落下防止対策を講じることが重要です。そして次に大切なのが、健康を維持すること。災害関連死を防ぎ、心身ともに健康でいることが、長期的な生活の質を左右します。そのために欠かせないものの一つが「食べ物」です。
 今の防災のキーワードは「フェーズフリー」。日常時と非常時を分けるのではなく、普段食べているものを災害時にも役立てようという考え方です。災害が起きた後は非日常が続くことがストレスになります。そのようなときに普段食べ慣れたものや、自分の好きな食べ物を食べることで日常を取り戻すことができ、心の安定につながります。いつもの食事が、もしもの時の食事になるような備えをしていきたいですね。

国消国産こくしょうこくさん」で備える—普段の食事から防災を考える

 「何を備蓄しておくと良いですか?」「災害が起きた後は何を食べれば良いですか?」とよく聞かれます。特別な非常食を用意するのではなく、「普段食べているものを被災時にどう活用するか」と考えてみてください。例えば、冷蔵庫や冷凍庫の食材、缶詰、乾物、野菜などをうまく使えば、数日分の食料を確保できるのではないでしょうか。また、ライフラインが止まった時に備え、備蓄している水で調理したり、夜に電気を消してカセットコンロを使って調理したりするなど、実際に試してみることをおすすめします。そうすることで、足りない備えに気づくことができます。
 私は横浜に住んでおり、物流が止まると新鮮な野菜が手に入りません。そこで、野菜ジュースやドライパックの大豆、乾燥野菜などを備蓄していますが、日頃から新鮮な野菜が手に入る地域の方が本当にうらやましいです。
 近年、お米や野菜の高騰や不足が懸念されています。そのうえ自然災害が起きたらどうなるのか、不安は尽きません。「国消国産」という考え方は、こうした状況に対するひとつの解決策になり得ます。
 「国消国産」とは、国内で消費する食料をできるだけ国内で生産すること。「地産地消」は、その地域で生産したものをその地域で消費すること。前者は「もっと作ろう」、後者は「もっと食べよう」という考え方で、どちらも大切です。
 農畜産物は一朝一夕に作れるものではありません。自然災害が起きてから困っても遅いのです。厳しい状況だからこそ、「国消国産」の意識を強く根づかせていくことが重要です。自給力が向上すれば、いざという時に安心です。私も国産農畜産物をもっと食べて、日本の農業と生産者を応援します!

宮崎県田野町の大根やぐら(2025.1.27)

さいごに

 JAの皆様は、地域にも全国にも助け合える仲間がいます。それは何よりも心強いことです。地域の防災リーダーとして活躍されている方も多いかと思います。私も「国消国産」を大切にし、皆様とともに防災力を高めていきたいと思います。

今泉マユ子

今泉マユ子 いまいずみ・まゆこ

1969年徳島市生まれ。株式会社オフィスRM代表取締役。管理栄養士、防災士、日本災害食学会災害食専門員の資格を持ち、防災食アドバイザーとして全国で400回以上講演を行う。東京消防庁より感謝状11枚拝受。NPO法人岡山コーチ協会理事。「家の光」講師。著書は『もしもごはん』シリーズ(清流出版)、『こどものための防災教室』『SDGsクッキング』シリーズ(共に理論社)など22冊。テレビ出演は200回以上、ラジオ、新聞、雑誌、WEBなどでも活躍中。「第3回私のSDGsコンテスト」大賞受賞。日本災害食学会「第12回学術大会」実行委員会賞(参加者投票1位)受賞。
株式会社オフィスRM:https://office-rm.com/

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