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食・農・地域の未来とJA

日本の食・農・地域の将来についての有識者メッセージ

「継続」と「多様な参加者」による「学びの場」の重要性

岸上光克 和歌山大学 経済学部 教授

はじめに

 地域との連携は、研究活動(いわゆる共同研究)と教育活動(学内の教育とともに地域における教育)に大別される。和歌山大学の食農総合研究教育センター(以下、食農センター)は、JAとの連携のみにとどまらず、食と農林水産業の分野に関わる学術研究の発展と地域社会との連携や地域貢献機能の強化に資することを目的に研究活動を行い、加えて研究成果の地域への提供や学内外における教育活動を行っている。研究活動については、本センターのホームページ(注1)で確認いただくとして、今回は、教育活動の内容について紹介する。

学内での学び~JAわかやま寄付講義「食と農のこれからを考える」~

 和歌山県における主要産業のひとつが農業である。そこで、本センターが学生に対して、食料・農業・農村に関する講義を可能な限り提供している。なかでも、2025年度で10年目を迎える和歌山県農協わかやま地域本部(旧JAわかやま)寄付講義「食と農のこれからを考える」は面白い。寄付講義の開設は、都市農業振興に関する共同研究が契機となっており、本学学生に「現場の生の声」や「最新の動向」を知ってもらいというJAの意向からスタートした。その内容は、多岐に渡り、多様な講師陣が登壇する(資料1 2025年度の講義内容)。例年の受講生は、本学学生を中心として、(約300名:内訳:経済60%、シス工25%、教育・観光15%)、高校生、JA職員、県庁職員、地域おこし協力隊員、一般受講生の社会人(約30人)が受講しており、大盛況となっている。講義中の真剣な眼差まなざしは講義内容への深い関心が窺える。また、学生にとっては社会人受講生がいることで緊張感がうまれ、JA職員含む社会人にとっては大学での(学生との)受講が刺激となっているようで、その表情から、受講の充実感が感じ取れる。

学外での学び~「きみの地域づくり学校」~

 学内に加え、学外でも様々な取り組みを行っている。そのひとつが、「きみの地域づくり学校」である。この取り組みは、田辺市で10年間実施されていた公益財団法人・江頭ホスピタリティ事業振興財団寄付講義「地域づくり戦略論」と「地域づくりの理論と実践」を他地域で展開したものである(注2)。そして、地域での学びを事業化するため、様々な事例を参考に検討を進め、「農村の価値を若者に伝え、活力のある地域を創出していく」という学校設立趣旨に賛同した発起人により、きみの地域づくり学校運営協議会が設立され、2023年「きみの地域づくり学校」が開校することになった(注3)。
 その内容は、なりわい創業を学ぶ視点から全15講の講義とメンターとして応援する先輩事業者の現場でのインターンシップにより構成されている。①大学教員等による学術的、専門的な面から農村の価値を学ぶ、②地域内、地域外の先輩事業者などから農村における起業・継業を学ぶ、である。この取り組みは、地域内外からの参加者に「多世代の交流」、「学びの場」を提供し、農業や農村の価値を伝えている。2025年度の受講生は、大学生が約20人、社会人が約20人となっており、JA職員も参加している。

学外での学び~農業高校でのワークショップ~

 もうひとつが、高校生によるワークショップ(以降、WSとする)である。
 ここ数年、「持続可能なわかやま農業の実現~地域資源を活用した循環型の農業を考える~」と題して、県内の農業高校である紀北農芸高校(2年生全員、約50人)でのWSを実施している。
 1日目は、「県内農業の現状や施策」、「WSの目的や今後の予定」という講義を実施し、今回の趣旨を座学で共有している。2日目は、有田市と田辺市における農業法人を視察し、県内における地域農業活性化の最先端を学んでいる。3日目は、座学と視察を通じて、今後の持続可能な循環型の農業や農村のあり方について、大学生がファシリテーターとして参加し、WSを行っている(写真)。高校生からは積極的に奇抜な意見が多くだされる。

和歌山大学でのWS発表時の様子

まとめ

 食農センターにおける地域と連携した教育活動で注目する点が2点あげられる。
 まずは、「継続は力なり」である。大学と地域との連携をみると、比較的短期間で終わる取り組みや、ともすると連携の実績だけを求める場合も見受けられる。「継続は力なり」であり、継続することで、その効果は大きくなる。JAわかやま寄付講義は10年継続しており、その間、本学学生の食料・農業・農村、そして協同組合としての農協の理解は深まっている。また、受講したJA職員をみても、協同組合への理解深化とともに、組織改革への意識向上につながっている。ちなみに、田辺市での地域づくり学校は10年、紀美野町での地域づくり学校は3年実施され、地域を担う人材が輩出されている。
 もうひとつは、「多様な参加者(学生と社会人の交流や高校生の参加)の参画」である。大学の講義は大学生のみが受講する場合が多いが、JAわかやま寄付講義、きみの地域づくり学校、ともに、高校生から社会人まで多様な参加者がみられる。講義中、講義後、フィールドワークなどで、立場の違う受講者が、受講し、意見交換を行っている。大学生にとってみれば、大人の意見を、社会人にとってみれば、高校生や大学生(若者)の意見を、聞くことのできる貴重な機会となっている。
 以上のように、教育活動は「継続」と「多様な参加者の参画」によって、より効果をあげることができると考えられる。これは、大学に限ったことではなく、JAでも同様であり、効果的な教育文化活動を行ううえでのポイントになるのではないだろうか。

  1. 注1)詳細は、本センターのホームページ参照
    https://www.wakayama-u.ac.jp/food-agri/
  2.  2)詳細は、藤田武弘・木村則夫・大浦由美・岸上光克編著『地域に学ぶひとづくり』筑波書房、2025年3月を参照
  3.  3)詳細は、紀美野町のホームページ参照
    https://www.town.kimino.wakayama.jp/sagasu/machi/chiikidukurischool/index.html

岸上光克

岸上光克 きしがみ・みつよし

和歌山大学 経済学部 教授
1977年兵庫県生まれ。博士(農学)。民間企業や行政の地域連携コーディネーターなどを経て、2016年に和歌山大学へ。現在、食農総合研究教育センター長も兼務。著書は『現代の食料・農業・農村を考える』(編著者)、『マーケットイン型産地づくりとJA』(分担)、『農業協同組合の組織・事業とその展開方向』(分担)など。
専門: 農業経済学(農協共販論、農産物流通論、地域づくり戦略論)

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