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食・農・地域の未来とJA

日本の食・農・地域の将来についての有識者メッセージ

国際女性農業従事者年に展望する女性農業経営継承者の育成

原珠里 東京農業大学 教授

国際女性農業従事者年に考える女性農業従事者の課題

 2026年、国連は「国際女性農業従事者年」を宣言している。アグリフードシステムにおける女性の役割の評価と、土地所有権、財政的・技術的制約、情報・教育へのアクセスの制限など、女性が直面する課題についての認識を高めることが目的とされる。女性のエンパワーメントを促進する政策や投資の促進が目指され、FAOを中心に世界各地における様々なイベント等の啓発活動がおこなわれている。
 FAOが主たる対象とするのはいわゆる開発途上国の女性であるような印象がある。しかし、経済先進国といえる欧米諸国でも、農地などの資源や情報へのアクセスの平等が実現されていないともいわれる。とりわけ、経営継承における女子の排除や無関心といった現状が各国の研究成果に示されている(Sutherland(2023), Ball(2020) など)。この点については日本も例外ではない。多くの努力によって農業分野でも男女共同参画が進んできているが、経営の継承という重要な課題については、これまであまりクローズアップされて来なかった。

日本における女性への農業経営継承

 日本では、家族農業経営の場合、男性の多くが経営主であるのに対し、女性は共同経営者や家族従事者という立場が多い。その最大の理由は、多くの経営が男子に優先的に継承されることがいまだに主流であることだ。戦後の民法改正により、相続に関するきょうだいの権利は平等になったものの、家族農業経営を「長男」に相続させる慣習が現在も残っている。この慣習はもちろん、それなりの合理性を持っていたとみられるが、子ども数の減少や職業選択に関する意識の変化から、後継者の確保が困難な状況が惹起じゃっきされている。また、男女平等の観点から見ても、この状況が永続することには問題があろう。はじめから男性が「主」で女性は「補佐」という位置付けを与え、男性のみに資産と責任を手渡すことを当然視することは、女性の権利や男性の負担を等閑視している。
 近年、女子への経営継承は増加しているとみられ、筆者らは、親元で経営を継ぐ予定か、すでに継承して経営主となっている女性の聞き取り調査を中心とした研究を実施し、書籍にまとめたところである(原編著『農を継ぐ女性−家族農業経営と「いえ」の継承−』(2026)筑波書房)。その中で農林業センサスの分析をおこなった澤田(澤田守 第2章「統計からみる女性経営主の特徴」)によると、女性経営主は近年大きく減少しているが、若年・中年層(60歳未満)では微増し、農業従事を強めているのである。

女性の経営継承経緯と意義

 女性が家族経営を継承するにはどのような経緯があるのか。長女で跡取りといわれて育った例もあるが、むしろ女性本人が農業を継ぐことを主体的に選択し実現している場合が多い。親世代は次世代への承継を諦めていたが、娘が自分で農業を選んだといった経緯である。そして、次女や三女、また男性のきょうだいがいる例もあり、昔ながらの跡取りという考えとは異なっている。また「婿養子」を迎えて経営主を譲る例もみられたが、農業経営主を女性本人が担い、配偶者は別の職業に従事している場合も多い。そして、結婚している場合、夫の姓を名乗っている例が若い世代では多い。全体として、経営の継承と「いえ」の継承が分離傾向にある。
 そして、女性の親元就農の良さとして、子どもの頃から農業に従事する親の姿を見ている「文化資本」、地域のネットワークをもっている「社会関係資本」、そして相続による農地や施設等の所有がしやすい「経済資本」をもつなど、いわゆる「嫁」の立場の女性よりも有利な条件をもつことが示された。しかし一方で、知識・技術を習得する既存の組織活動については、男性中心で参加しづらい点も指摘されている(前掲書第4章 中丸京子「年齢層別にみる女性後継者のキャリア形成」)。
 農業という職業に男性のイメージが強い理由の一つは、大型機械の操作、重い生産物や資材の運搬、といった筋力を必要とする仕事にあると思われる。しかし現在、それらを軽減する機械等も生まれ、一方で農業経営には、企画、財務分析、IT関係、マーケティング、労務管理、さらには語学など、女性が能力を発揮しやすい領域が広がってきている。農業経営における女性の能力はさらにかせる可能性が高い。
 筆者らがWEB調査会社に委託して実施した意識調査によれば、女子が家族農業経営を継承することについて「まったく問題ない」と答えた回答者は、農林業従事者でもそれ以外の職業の回答者でも6割を超えた。家族農業経営の跡取りは男性であるという思い込みを外して、本人の意思や適性により、女性にも同等の権利、また義務があることを確認したい。

JAへの期待

 かつての農村社会における経営主とその妻、後継者とその妻、それぞれがはいるべき組織があるという伝統的あり方は、すでに現実に適応しがたくなっている。女性農業従事者の場合も、その立場が経営主なのか、共同経営者なのか、補助的役割なのかによって、参加したい組織も異なってくるだろう。性別に関わらず個人として、多様な組織内で情報やスキルを得たり、重要な意思決定に参加したりできることが、今後ますます求められるのではないだろうか。JAがその組織を活かして女性農業後継者・経営主の育成を支援することが大きな力となるだろう。
 国際女性農業従事者年の今年、女性の資産や継承への権利にも光が当たることを期待したい。


*「国際女性農業従事者年」は英語では、International Year of the Woman Farmer である。しかし、その対象は農業だけでなく林業、水産業の従事者、さらに、フードシステム関係産業への従事者まで、非常に広い。本稿では農業に注目する。

参考文献
Ball, Jennifer A Women farmers in developed countries :a literature review, Agriculture and Human Values, 2020, 37: 147-160
Sutherland, Lee-Ann et al. Breaking Patriarchal Succession Cycles: How Land Relations Influence Women’s Roles in Farming, Rural Sociology 2023,88(2), 512–545

原珠里 はら・じゅり

東京農業大学国際食料情報学部国際食農科学科教授。博士(農学)。
1963年生まれ。農研機構等を経て現職。著書に『農村女性のパーソナルネットワーク』(2009)農林統計協会、『農を継ぐ女性−家族農業経営と「いえ」の継承−』(編著)(2026)筑波書房 等。

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