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「牛のうどん屋さん」

 JA高知県女性部れいほく地区の女性部内には、2015年9月に12人の部員が立ち上げた「牛のうどん屋さん」というグループがあり、れいほく家畜市場でセリが行われる日に合わせて、食堂を開いている。
 以前は、地域の食生活改善グループがうどんなどを提供していたが、メンバーの高齢化に伴い継続が困難になった。市場関係者は遠方から買い付けに来る市場関係者や地元の生産者のためにも食堂は必要だと考え、後継者を探した。その際に声がかかったのが、川井さんをはじめとするメンバーだった。これまで提供したメニューは地元産の米粉を原料とするラーメンやうどん、「土佐あかうし」のカレーやあかうし丼などで、いずれも来場者から好評を博している。

「牛のうどん屋さんカフェ」

 2017年9月の相川事業所の廃止を受け、川井さんらメンバーは「地域の人が気軽に交流できる場をつくりたい」との思いが募り、半年後の2018年3月に月1回の頻度で牛のうどん屋さんの2号店として「牛のうどん屋さんカフェ」をオープンした。そんな折、カフェの会場である旧相川事業所は土佐町役場に移譲されることになった。「牛のうどん屋さん」メンバーは開催場所を失ったと思ったが、地元の消防団とJA女性部の2組織については今後も旧相川事業所を無償利用できるよう認めた。さらに、調理などがしやすいように改装も行われた。
背景には、建物が行政と農協の共同出資で建設されるなど、JAと町の良好な関係性があるだろう。それに加え、JA女性組織の助け合い組織である「あおぞら会」のミニデイサービスなど、活動の地域貢献度が高いことがあると推察される。

郷土料理「田舎ずし」を作成した本山支部支部長の真辺由香さん

牛のうどん屋さんカフェで舌鼓を打つ地域の女性たち

 2020年2月からはコロナ禍の影響で営業を中断していたが、「地元の農畜産物を消費してもらいたい」とのメンバーの思いから、感染拡大防止に配慮を重ねた上で同年7月にJAの施設で地元産野菜をふんだんに使ったランチ会を開催した。川井さんはそのときの思いを「女性部活動ができず加工品も売れない。こんなときだからこそ女性部主導で何かしたいと思った」と語る。

行政との連携によるランチの復活

 2023年2月からは土佐町社会福祉協議会の「あったかふれあいサロン」とコラボして、3年ぶりにランチ会を開催した。オープン前から旧相川事業所の前には列ができ、用意した70食を完売した。価格は1000円で地元の70歳以上の利用客には500円で振る舞われた。来訪者は地元の高齢者をはじめ、赤ちゃん連れの女性、元農協職員の90代の男性、視察を兼ねた他の自治体の女性部の支部長と社協職員、県議会議員など、多種多様であった。また先輩女性部員たちが訪れ女子会を開催するなど、JA女性組織の世代間交流も見られた。

自分磨きの場所となる「れいほく寺子屋」

「れいほく寺子屋」は、JA高知県女性部れいほく地区全体が主催する女性の相互研さん の場である。「管内の女性がJAをよりどころとして生活全般について学習し、明るく豊かになれるような自分磨きができる場となること」を目的に2014年7月に開講した。
 2回目は2015年2月に「誰でもできる」をテーマに、春まき家庭菜園の特徴や連作障害、鳥獣害対策をJAの営農指導員に学び、後半はJA女性部の部員を講師に「米袋のエコバッグ」作りを行った。3回目は2015年7月に「家庭菜園のいろは」をテーマに、JAから花卉 かき 担当職員を講師に招き、管内の花のルーツや暮らしの中に花を取り入れる方法を前半で学び、後半はタマネギと牛乳を用いた「ゴキブリホウ酸だんご」作りに挑戦した。2017年2月に開催された第6回では「防災」をテーマに、大手警備保障会社から講師を招きAEDの操作方法や災害時への備えを学び、炊き出し訓練を実施した。
 各回の参加者はおよそ30~40人で、参加者が共通して学べるテーマを毎回設定してきた。講座は2~3部構成で座学とセットで手芸や料理などのワークショップが組み合わされる。専門性を要するテーマにはJAの営農指導員や役場の職員など、自分たちの活動を応援してくれる人に講師を依頼し、ワークショップでは部員が交代で講師を務めてきた。この運営手法は費用が抑えられるのみならず、互いに教え合うことで部員個人の自主性や協調性も高められ、部員間・支部間の交流にもなる。
 2023年2月の第18回「れいほく寺子屋」は、3部構成で開催された。第1部では「SDGsとJA女性組織」と題して筆者が講演。第2部では川井さんが講師となっての「蜜蝋みつろう ラップ作り」。第3部は土佐町役場SDGs推進室室長・尾崎康隆さん(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程在籍)らを講師に、「SDGs de 地方創生」のカードゲームを実施した。尾崎さんがSDGsの研修講師を引き受けるのは2度目になる。

「SDGs de 地方創生」のカードゲームに励む女性部員と小学生

 この日の昼食は前日のカフェに引き続き「牛のうどん屋さん」によるお弁当で、メインは「土佐あかうし」のハンバーグであった。
 
 土佐町においては「廃止になった事業所を活用して地域を元気にしたい」という川井さんを中心とするJA女性部員の願いと行政、JAを中心とする関係者の協力支援があってさまざまな取り組みを実現させている。
 そこには長年にわたる互いの連携と信頼関係があり、それぞれが地域の元気づくりに重要な役割を担っていることを今回の取材で実感した。

牛のうどん屋さんメンバーによる手書きのメニューが付いたお弁当

阿高あや あたか・あや

福島県生まれ。福島大学大学院人間発達文化研究科、修了。東京大学大学院学際情報学府、在学中。2013年桜の聖母短期大学・助教、2014年地産地消ふくしまネット・特任研究員を経て、15年よりJC総研・副主任研究員、21年4月より現職。東京大学、法政大学の非常勤講師を兼務。

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