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地域の元気を生み出すJA

第29回JA全国大会決議をふまえた全国各地の創意工夫ある取り組み

廃止された事業所を活用し、地域を元気にする活動を

JA高知県女性部れいほく地区の取り組み
阿高あや 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA)基礎研究部 主任研究員

 JAグループは、一昨年開催の第29回JA全国大会において「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」を決議し、令和5年はその実践2年目となります。食と農の未来、国消国産運動の推進、地域の元気づくり、農福連携など、消費者の皆さまにも身近に感じられるテーマについて、全国各地のJAの取り組みを紹介します。

<地域の概況>
高知県土佐町について
 
 土佐町は大豊町、本山町、土佐町、大川村の4町村からなる高知県の嶺北れいほく 地域の中の一つで、四国のほぼ中央に位置する。総面積は212.13km²で、うち87%は森林である。1973年に「四国の水がめ」として建設された「早明浦さめうら ダム」があり、町内には四国三大河川の吉野川が東西に流れる。
 基幹産業は農林業で、町内は昼夜の寒暖差が15℃以上になる日が多く、この気候を生かし、農業では「相川米」をはじめとする水稲、肉用牛、夏秋野菜等の生産が盛んである。肉用牛では、明治期に農耕や堆肥用の使役牛として飼われていた韓牛 かんぎゅうに外国品種や在来種の交配を重ね開発された褐毛あかげ和種「土佐あかうし」が生産されている。
 また町内の林野面積の82%は杉やヒノキの人工林で、特に杉は中心部が赤色を帯び「土佐の赤杉」と呼ばれ、江戸時代より土佐藩の財源として大切に生産されてきた。町内では、林業インターンシップや自伐型林業をミッションにした地域おこし協力隊を複数雇用するなど、役場を中心に林業の担い手育成が進められている。
 人口は3,753人で高齢化率は48%に上る(2020年時点)が、町の行政は結婚祝い金、不妊治療の助成、保育料の無償化、小中学校の給食費の無償化、出産祝い金、保育助成金制度、高校までの医療費無償化等の切れ目のない子育て支援や、定住促進のための宅地の整備、空き家等を活用したサテライトオフィスなど移住促進・人口減少対策に力を入れている。
 2020年度には高知県では初となる「SDGs未来都市」に選定されている。

土佐町の人口推移
1960年 1970年 1980年 1990年 2000年 2010年 2020年
8,734人 8,099人 6,663人 5,566人 5,035人 4,358人 3,753人

出典:国勢調査

広域合併前の拠点再編―旧相川事業所

 旧JA土佐れいほくは1995年4月に5町村6農協が合併し設立された(2019年1月には旧JA土佐れいほくを含む高知県下12JAと連合会機能が統合し、JA高知県が誕生)。JA高知県が誕生する以前、旧JA土佐れいほくの管内には地蔵寺、相川、石原の3地区に小規模事業所が存在していたが、経済事業改革の中で拠点再編の対象となった。方針として赤字である小規模事業所は、廃止または地域に新たな委託先を探して存続していくかの二択で議論された。しかし、挙手する運営主体は現れず、2017年9月に3つの事業所は閉鎖された。

旧事業所で「牛のうどん屋さんカフェ」を開催する代表の川井由紀さん

 旧JA土佐れいほく相川事業所は、1983年に竣工しゅんこう した。相川事業所は、建設当初から行政と農協の機能が同居した場であった。建物は2階建てで、入り口は左右に分かれている。右側には土佐町農業協同組合相川事業所、左側の入り口には「相川地区多目的研修集会施設」と表記されている。1階右側は農協の事業所で、店舗では生鮮品や総菜や生活用品などが販売されていた。1階左側は生活改善実習室があり、農協婦人部(現JA女性部)や地域の生活改善グループなどが農協の生活指導員や行政の生活改良普及員などと共に、衣・食・住をはじめとする生活改善運動に使用していた。2階には集会ができる広間があり、この部分の建設には土佐町の新農業構造改善事業の予算が充てられた。
 以前も同じ場所に木造2階建ての支所があり、2階は集会所の機能を果たしていた。当時の婦人会に所属する女性たちは、そこで「よさこい踊り」の着付けを行ったり、クリスマスケーキを作ったりしていた。それを目の当たりにしていた当時の子どもたちが、今、女性組織を担う世代となっている。
 相川地区は、かつて地域の農民が主導して産業組合(注)を結成した。これに携わった地元住民は、産業組合の設立後も喧々諤々けんけんがくがく の議論を重ね、試行錯誤で農業と村を自治した。当時のエピソードは産業組合の創始者から子や孫へ、そして産業組合の系譜を引き継いだ農協職員へと語り継がれた。話を伺った複数の組合員は「相川の人たちは自分たちで産業組合をつくった。農協への思いも強い」と語る。相川事業所の廃止後、なかなか建物に電気がつくことはなく、かつての思い出が詰まった女性部員や農家組合員らは、旧事業所の前を通ると「どうなるんかねぇ?」と建物の使途を案じていた。

注:現在の農業協同組合(JA)、生活協同組合(CO-OP)などの母体となった組織

女性の視点で改革に取り組む

 JA高知県女性部れいほく地区の部員は2023年3月現在で333人おり、同地区の正組合員89人、准組合員141人、組合員外103人(組合員の家族含む)で構成される。支部は土佐町支部(116人)、本山支部(79人)、大豊支部(42人)、天坪支部(27人)、大川支部(32人)、フレッシュミズ部会(37人)の6つの支部がある。また支部の他、「家の光記事活用グループ」と「目的別グループ」が複数あり、主に女性部員で構成される。
「家の光記事活用グループ」は、かあさん(4人)、さくらグループ(15人)、ジャカランタの会(15人)、花桃の会(5人)、東石原さくら会(11人)、やまゆりの会(10人)がある。
「目的別グループ」は牛のうどん屋さん(11人)、米粉倶楽部(20人)、相川あおぞら会(10人)で活動を行っている。
 現在、JA高知県の理事も務める川井由紀さんは正組合員で、水稲と「土佐あかうし」の繁殖を営んでいる。旧JA土佐れいほくが1995年に誕生した翌年にJA職員に声をかけられたのを機に「仲間と何か新しいことができるかも!」と考えフレッシュミズを結成。32歳のときに女性組織の活動がスタートした。
 この頃に行ったことの一つがJA女性部の名簿作りだ。当時のJA女性部には、行政の生活改善運動の流れで地域からの声かけにより交代で参加する者とJAの女性部員が渾然こんぜん 一体となっていた。川井さんは、イベント保険に加入する必要があった際に部員の名寄せができず困難が生じたことから、改めてJA女性部の名簿を作成。以後、JA職員と連携して、適時、組合への加入推進も行った。
 2001年に38歳で旧JA土佐れいほくの理事に就任し、翌2002年には39歳で女性部の部長に就任した。2011年には「JAは男性中心の社会」と感じたのを機に女性部の仲間とJAに訴え、女性理事を1人から2人にに増員した。2013年にはJA高知女性組織協議会の会長に就任し、「生涯現役+1運動」やフレッシュミズ先進地視察など、JA女性組織の特性を生かしたさまざまな企画を実現させた。
 そして2017年には歴代最年少の52歳でJA全国女性組織協議会の会長に就任し、ASEAN各国の農村女性や農業開発に関する会議やICA(国際協同組合同盟)の総会などに出席し、JA女性組織の知見を世界に広めた。また、農業・農村における女性の活躍をテーマに、トルコ、フィリピン、国内の複数の大学や日本協同組合学会などで講演も行った。

地域住民・JA役職員らが多数参加した「農協女性部夏の祭り」ビアホール(2019年9月) 写真提供:川井由紀さん

 川井さんが大切にしているのは「自ら企画して、資金をやりくりして、仲間と共に学ぶ」ことである。主催をJAではなく女性部とすることにもこだわりがあり、企画/資金両面で自立した活動を心がけている。例えば、フレッシュミズの頃に開催した1日限定ビアホールだ。
「これには地域食材のPR、郷土食の料理教室開催、女性部活動の広報など、複数の意味があります。そして稼いだ資金でメンバーの海外研修旅行にも行きました!」と話す。
「何よりまず自分らが楽しむ。そしてJAの中で好きなことをする!」これこそが自分も仲間も活動が継続する鍵となっているのだろう。
 川井さんたちがこれまで地域で手がけてきた主な取り組みは以下のとおりである。

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