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AI選果機能を持つ新選果場の設置

 さて、貯蔵を終えたみかんは、その後すぐに出荷されるわけではない。各生産者は貯蔵を終えたみかんをJAの選果場に持ち込み、そこで一つ一つのみかんは等級(外観や内部品質)と階級(大きさ)を組み合わせた出荷規格ごとに分けられた上で箱詰めされ、ようやく全国各地へと出荷されていく。
 JAみっかびでは、従来の選果場の老朽化が進んだことなどから、2021年度に新たな選果場を設置している。その総工費は約80億円。4階建てで床面積合計が2万2,000㎡に及ぶ国内最大規模の柑橘選果場であり、さまざまな最先端技術が導入されている。

新たな柑橘選果場の全景

 まず、選果能力の大幅な向上が図られている。みかんの選果においては、外部品質センサーを用いて大きさや形状を判別し、内部品質センサーを用いて糖度やクエン酸の測定が行われているが、新たな選果場ではそれらセンサーの能力がアップし、1秒当たりに処理できるみかんの個数が5個から8個へと拡大している。

外部品質センサーによって撮影されたみかんの画像

内部品質センサーをみかんが通過する様子

 また、選果能力の質的なレベルアップも図られている。特に注目されるのはAI(人工知能)の導入である。外部品質センサーにAIを組み合わせることにより、これまで人の目に頼らざるを得なかった生傷や病害果などの識別を実現している。
 もちろんAIは学習しなければ機能しない。同JAでは2年間かけ、数万枚の生傷や病害果の画像をAIに学習させ、その上で選果場の稼働を開始している。現在、例えば生傷の判別精度は99%で、今後AIが学習することによりその精度はさらに高まることが見込まれている。
 このように選果能力が向上することによって、市場からの三ヶ日みかんの品質に対する信頼が高まり、市場単価は上がる傾向にある。また、生産者の省力化にもつながっている。従来、生産者は貯蔵を終えたみかんをそれぞれの家で「良品以上(秀・優・良)」「2等品」「加工向け」に分け、さらに2等品はもう一度チェックを行うなど、家庭選果を二度行った上で選果場に持ち込んでいた。しかし新たな選果場では選果の質的強化が図られたため、家庭選果は2等品以上と加工向けに分ける一度だけで済むようになっている。
 この他にも、新たな選果場には近赤外光をごく短時間照射して鮮度や食味低下を防ぐ「腐敗防止軽減装置」、箱詰めした複数の出荷規格品を混載しながら完全自動で積み上げる「ロボットパレタイザー」、選果工程で見つかった腐敗果実を微生物の力で水に分解して処理する「腐敗果処理装置」などが導入されている。
 JAみっかびが新たに設置した選果場は、最先端技術を集めた、さながらハイテク工場のようなのである。

みかんづくりの未来に向けた挑戦

     

 長い歴史を持つ三ヶ日地区のみかんづくりでは、前述の貯蔵技術のように匠の技が受け継がれてきている。一方、時代を先取りした試みにも挑戦し続けてきている。その一つが前述のAIの導入であり、ここではさらに「機能性表示食品」の取り組みを紹介しておく。
 2015年9月、三ヶ日みかんは生鮮食品としては国内初の機能性表示食品として認められた。これは当地区での10年以上にわたる疫学調査を通じて、三ヶ日みかんに含まれる抗酸化物質(β-クリプトキサンチン)には生活習慣病のリスク低下等の効果があることが明らかとなり、それを踏まえて、「健康」の観点からみかんの新たな可能性を示すために取り組んだものである。実際の審査に対応したJAの担当者は、書類の修正だけで17回も重ねるなど大きな苦労を要したが、その後次々と後発の産地も誕生するなど、まさに先鞭せんべんを付ける試みであった。
 こうした「挑戦」をいとわない同地区の風土は、特に若い生産者を引きつける上で重要な意味を持っていると考えられる。図はマルエムの荷受数量と組合員数を示したものである。組合員数に着目すると、2010年の867人から2020年には764人へと減少しており、減少率は11.9%となっている。ただしこの間のわが国における販売農家の減少率は37.0%であり、それを踏まえると三ヶ日地区では生産者がよく残っているといえる。そしてその結果、荷受数量も隔年結果等のために変動は大きいが、3万t前後の水準が維持されている。

図 近年の三ヶ日町柑橘出荷組合の荷受数量と組合員数の推移
出典:JAみっかび資料に基づき作成。

 実際に若手生産者の活動は活発である。40歳以下が集まるマルエム青年部では、産地の10年、20年先を見据えて多面的なアクションを起こしており、栽培の面では、青島温州の難点である隔年結果や温暖化の克服を目指して、剪定方法や肥料設計などの研究、新しい品種の試験栽培などに取り組んでいる。また、販売の面では、消費者の嗜好しこう変化をみかんづくりに反映させるため、販売先との継続的な対話や、実際に売り場に立っての消費者との交流などを展開している。
 JAみっかびの井口義朗代表理事組合長は、新たな選果場は「未来に向けた投資」とした上で、省力化を通じた生産者の規模拡大への期待を口にするとともに、「AIの学習が進めばみかんの品質をさらに細分化することができ、あらゆるマーケットのニーズに対応できる」と述べた。ひょっとしたら近い将来、消費者一人一人の求める品質に応じて箱詰めやネット詰めを行う究極のオーダーメイド型販売を展開するのではないか、そんな未来を勝手ながらつい想像してしまうのであった。

西井賢悟 にしい・けんご

1978年東京都生まれ。岡山大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了。博士(農学)。一般社団法人長野県農協地域開発機構研究員を経て、2016年4月より一般社団法人JC総研(現JCA)主任研究員。著書に『信頼型マネジメントによる農協生産部会の革新』(単著)、『事例から学ぶ 組合員と進めるJA自己改革』(編著)

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