地域の元気を生み出すJA
女性の力がJAと地域を生き生きと盛り上げる
JAグループは一昨年開催の第29回JA全国大会において「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」を決議し、令和5年はその実践2年目となります。食と農の未来、国消国産運動の推進、地域の元気づくり、農福連携など、消費者の皆さまにも身近に感じられるテーマについて、全国各地のJAの取り組みを紹介します。
<山梨県:JA南アルプス市>
JA南アルプス市は山梨県南アルプス市全域を管内とするJAである。山梨県の西部、南アルプス山麓に位置し、西には日本第2位の高峰北岳、南には日本第1位の富士山、北には八ヶ岳を望む、美しい自然に囲まれた地域である。管内では、盆地特有の気温の高低差や土壌の特徴を生かし、生産量日本一を誇るスモモをはじめ、サクランボ・モモ・ブドウ・カキ・キウイフルーツなどの果樹が盛んに生産されている。

女性活躍の推進は全世界的な課題の一つ
毎年発表される、世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数は移り映えのしない年中行事になりつつあり、2023年のわが国の状況は146か国中125位と、昨年よりも9ランクもダウンする結果となった。他国が男女格差解消の歩みを進める中、日本が足踏みをしてきた結果だと専門家は分析する。
JAグループにおいては、第29回JA全国大会で決議した「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」の中で「女性の活躍推進」を目標に掲げる。減少を続ける女性の基幹的農業従事者やJA女性組織メンバーとの、「アクティブ・メンバーシップの確立」を目指し、女性たちが活躍しやすい環境をつくろうとするものである。
また、女性のJA運営参画についても、正組合員30%、総代15%、理事等15%という3つの目標を設定し、目標達成に向けて、年々少しずつではあるものの、数値を伸ばしているところである。
一方、JAで働く女性たちに目を向けてみよう。女性組合員や地域に暮らす女性たちとのつながりを強固にしたい、あるいは女性たちにJAの運営参画を促したいと考えた場合、活動拠点となるJAで、女性職員たちが生き生きと業務を行っているか否かは、地域の女性たちに少なからず影響を及ぼす。女性の管理職が少ない地域や、女性が魅力的だと感じづらい地域からは、若い女性が都会へと流出する率が高まるというデータもある。
そして何より、JA職員の半数以上を占めるといわれる女性たちの働きやすさや働きがいを軽視することは、JAの体力を弱めることに直結する。女性職員の活躍を推進することは、JAと地域にとって欠かせない観点ではないだろうか。
合併を機に女性が生き生きと輝く職場づくりに注力
JA南アルプス市は、1995年5月に、当時の中巨摩郡西部地区の8JAの広域合併により誕生した(合併当時はJAこま野。その後行政の合併を受けて、2018年にJA南アルプス市と名称変更)。
同JAでは、合併を機に、職員の働き方改革に本格的に取り組み始めた。職員の数が限られる中、事業の質を担保するには人材育成の観点が必要であり、人が育つためには、働きやすい職場づくりが欠かせないと考えたためだ。中でも、旧JAごとに理解の差があった、女性の活躍推進について、合併がよい刺激となり、JA全体でその必要性を共有するに至ったという。
まずスタートとして、性別に関わりなく「資格認証試験」の受験を促した。合併時には、旧JAによっては女性の資格認証試験の受験者は限られていたが、新JA全体として、男女の平等性と、試験結果を人事評価に生かす透明性を前面に打ち出した。その結果、2000年には初の女性次長が、翌年には女性支所長が誕生した。その後、全16支所(当時)のうち、5人が女性支所長となり、初めて女性が販売部長にも任命された。
こうした実績を年々積み重ねる中で、女性だけでなく男性職員も刺激を受け、「頑張れば平等に評価される」ということが当たり前のこととして認識されるようになった。自ら所属長に手を挙げる女性職員も出始めたという。
「資格認証試験の情報は、性別に関係なく、対象職員全員に共有されます。試験のための研修も同様です。だから誰でもやる気さえあれば挑戦できます」
そう話すのは、総務部次長の髙橋美和さんだ。「資格の取得から実際の登用、結果の反映を繰り返す中で、女性の管理職が違和感なく定着しました」(髙橋次長)。2023年4月1日現在の、係長以上の管理職数は45人で、うち20人を女性が占めているという。
穴水一美さんは、今年4月に営農経済部の次長に抜てきされた。
「4月までは拠点型経済店舗『アグリガーデン南部店』の店長をしていました。次長になり、経済部門全体をとりまとめなければなりません。それはとても重責で、正直失敗もあります。会議で思うように答えられなかったときには、上司がフォローしてくれました。部下に助けられることもしばしば。まだ自信はないけれど『上に立たなければ』と気負うのではなく、母のように包み込みながら、自分の良さを生かしていきたいです」(穴水次長)
女性のやりがいを醸成~さまざまな資格取得や正職員に挑戦できる風土
JA南アルプス市が力を入れているのは「資格認証試験」だけではない。全ての職員に対し、営農指導員やファイナンシャルプランナー、内部監査士などさまざまな資格の取得を推奨している。ポイントは、今の業務に直接関係なくても、本人の希望があれば、積極的にトライできるところである。JAから認められれば受講料などの補助も受けることができる。なぜそうしたことを実践しているかといえば、今学んだことがゆくゆくの業務に役立つことや、新たなアイデアの発出につながることが多いと考えるからであり、人材育成を長期スパンで捉えているJAの姿勢が表れている。勉強中の職員には役員や上司が「頑張れ!」と積極的に声がけをする。
営農経済部次長の五味広子さんは、JAのそうした風土に後押しされ、さまざまな資格取得に挑戦してきた。「ファイナンシャルプランナー3級は業務上必須でしたが、同2級は自主的に取得しました。また、仕事には関係ないですが、危険物乙4種の資格も持っています」(五味次長)
五味次長は、自主的に取得した食育インストラクターの資格を生かして、市内の病院で食育学習会の講師を務めるなど、業務としての活躍の場を広げている。また、2021年度の異動で新たに担当することとなったJA女性部活動の企画運営においても、かつて取得していた資格やこれまでの経験は大いに役立ち、新たな挑戦にもつながっている。「教育体制が整っていることは、女性のやりがいや自信に直結しています。次は、野菜ソムリエにもトライし、業務に生かしたいと考えています」(五味次長)

病院で講師として活躍する五味次長
総務部の広報・イベント課に所属する深澤直子さんは、現在、ドローン操縦士の資格取得にチャレンジしている。同JAでは深澤さんの他、男性職員3人も共に学んでいるところで、資格取得のための研修受講料等はJAが負担している。「『日本農業新聞』の特別通信員を担当しています。ドローンの資格を取得して、今までとは一味違った広報のアイデアや農薬散布の撮影などに生かしたいです」と深澤さんは夢いっぱいに語ってくれた。JAは働きやすい職場かと尋ねると、「とても働きやすいです。特に女性が上司(前出の髙橋次長)なので、なんでも話せるし、親しみがあります。困ったときはいつでも相談に乗ってくれる、とても頼りになる上司です」という答えが返ってきた。女性管理職が、次の世代を育てるところにまで到達しているようだ。
さらに人事面においても、誰でも等しくチャンスが与えられる仕組みが整っている。その一つが臨時職員を正職員にする制度である。現在、組合内の規程では年齢の基準を設けているものの、所属長が推薦し組合長が認めれば基準以上の年齢の職員も積極的に採用している。若さによらず、現場における経験の積み重ねが評価の対象となる。「年を重ねたことを負として捉えるのではなく、経験値というプラス要素として考えています。本人にやる気さえあれば、今は臨時職員であっても正職員への登用の道が開かれていることは、女性にとってもJAにとっても最良なことだと思います」(髙橋次長)

左から、髙橋次長、五味次長、穴水次長、深澤さん
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