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(2)成果を上げる「南信州担い手就農研修制度」とは

 新規就農者に向け、同プロデュースの下で実施される「南信州担い手就農研修制度」(以下、同研修制度)の概要は以下のとおりである。
①研修生の募集は同プロデュースが行い、JAは同研修制度の事業受託先として4月から2年間の研修を行う。
②研修生は研修後の移住就農を前提に、管内市町村の「地域おこし協力隊」に応募し採用見込みを得ることが条件となっている。
③研修生はJAの関連会社である㈱市田柿本舗ぷらう※の管理園地で、「市田柿」と「夏秋きゅうり」の複合栽培研修で技術と経営ノウハウ等を習得する。
④指導は元JA営農技術員の職員2名が担当する。
※「株式会社 市田柿本舗ぷらう」
2009年7月設立(資本金5,615万円)。事業内容は柿園の借入管理による「市田柿」原料生柿の生産、農産物の生産販売。また、担い手減少への対応(担い手就農研修)を行っている。

 木下氏は同研修制度のメリットを「『市田柿』と『夏秋きゅうり』の2品目は、作業時期が重ならず、収益性が高く、きゅうりで使用したパイプハウスは『市田柿』の干し場として活用できる利点がある。また、トレーニングファームでの研修は、研修内容にバラツキがなく、基礎を学ぶのに適している」と語る。さらに「研修生は地域おこし協力隊員のため研修期間中の所属先が明確になり、賃金も行政から支給され生活が保障される。このことは研修生に大きな安心感をもたらしている」と「地域おこし協力隊」制度を活用する理由を語る。
 これまでに第1期生から第6期生まで29名が受講し、うち卒業生16名が就農している(第5期生6名、第6期生7名は研修中)。なお、研修生は地域おこし協力隊員として都市圏からの移住者が中心である(飯田市の独自支援策を活用した親元就農者も含む)。
 卒業生の中には「夏秋きゅうり」を1日2回の収穫で10a当たり20t(基準はハウスで15t)以上収穫する強者もいる。また、JAみなみ信州柿部会で行う市田柿品質コンクールで最優秀賞・優秀賞受賞者の柿を5年間、「たくみいただき」という高品質ブランドとして販売しているが、前年度は研修卒業生2名が受賞し、今年度から「匠の頂」として販売されるなど、卒業生はめざましい活躍を遂げている。ここにも、同研修制度の成果が表れている。

研修生が地域農業の活性化に大きな役割を果たす

「市田柿」の「匠の頂」

(3)高齢化する生産農家への対策と新たなプロジェクト等

「市田柿」の商品化にあたっては、原料柿の栽培、収穫、柿むき・のれんづくり、乾燥、柿もみ・天日干し、出荷といった作業工程が必要となる。この作業は主に農家で加工し、包装荷造りを行うが、高齢化により作業負担が大きくなった農家が増加しているため、JAは高齢化する生産農家への対策として、2013年から「市田柿」専門の加工施設「市田柿工房」の運営を始め、農家の労力軽減と販売高のアップに向け取り組みを進めている。
 現在では、「市田柿工房」が加工できなくなった農家から生の柿を受け入れ、干し柿に加工する他、選果、リパックを行い、量販店やコンビニ向けなど実需者に対応したオリジナルの包装形態で販路を拡大している。
 また、JAは新たに行政と連携し「市田柿生産拡大プロジェクト」を今年度から立ち上げている。同プロジェクトは、増加する遊休地対策の栽培品目として「市田柿」を重点品目と定め、栽培面積および生産量の数値目標を設定し、新植事業による「市田柿」の生産基盤の維持・拡大を図る取り組みである。同プロジェクトにより、JAは「市田柿」の取扱金額を26.4億円から30億円へ拡大することを目指している。
 さらに、2020年には翌年「市田柿」販売開始100周年を迎えるにあたり、生産販売する事業者が参加した「市田柿活性化推進協議会」を立ち上げ、「市田柿」を核とした地域活性化を図るため、長野県地域発元気づくり支援金と加盟事業者の出資によるPR活動と食育を展開している。主な活動は、東京、大阪などに向けた「市田柿」ラッピングバスの運行、管内22校の全中学生4,795名に「市田柿」の歴史や栽培加工方法を掲載した「市田柿ストーリーブック」の配布、「市田柿」の食べ方を提案するレシピブック(3万部)の作製など地域活性化を目指した話題性に富む広報活動を展開し、新聞やテレビなど多くのマス媒体で取り上げられている。

4. 「市田柿」を基軸とした地域活性化とJAのリーダーシップ

 地域活性化は「地域の課題について分析し、地域にある文化や産業の特徴を活かすこと、地域を巻き込み多くの関係する人を育成すること、中長期的な視点で取り組み、一過性にしないこと」が要訣ようけつと言われている。
 この観点から見ると伝統ある地域の特産品「市田柿」を基軸とし、地域全体を巻き込むJAみなみ信州の取り組みは、まさに地域活性化のお手本と言える。GIへの登録をはじめとするブランド化の取り組みは「市田柿」の市場価値を高め、かつて、“農家の冬のボーナス”と言われた「市田柿」は、今やJAの組合員を支える地域ブランドに成長している。
 このことは、新規就農・移住・定住を目指す都市住民が「南信州・担い手就農プロデュース」により、「南信州担い手就農研修制度」へ応募する理由の一つにもなっている。木下氏によれば、「研修をはじめ新規就農者に対し官民一体となった手厚い支援策と『市田柿』のブランド力と将来性が新規就農を決定する動機付けになっている」と研修生の声を語る。
 また、さまざまな取り組みの中で、刮目かつもくすべきはJAの強力なリーダーシップである。管内14市町村の行政や多くの利害関係者が存在する中、JAは地域の調整役として、また核となり各プロジェクトを牽引けんいんしている。
 例えば、2008年から始まった品質を高める「脱針式皮むき機」の導入はその一例である。高齢化や担い手不在を理由として投資負担に難色を示す生産者に対し、足かけ6年にわたる指導と支援の結果、2014年に完全移行し市場評価の向上につなげている。粘り強く地域を巻き込む姿勢は地域に根ざした農業協同組合ならではの取り組みであると言える。
以上のとおり、「市田柿」ブランドの魅力の高まりは、着実に就農・移住・定住といった流れを生み、その背後にはJAみなみ信州が地域の核として奔走する姿を見ることができる。

 12月は「市田柿」の出荷月であることと、市田(いちだ)の「 1 」から、12月1日は「市田柿の日」に登録されている。11月下旬から出荷が始まる南信州ならではの風土から生まれた干し柿の逸品「市田柿」を味わってみてはいかがであろうか。

小林聖平 こばやし・しょうへい

1984年に全国共済農業協同組合連合会入会。
2022年に全国共済農業協同組合連合会から一般社団法人日本協同組合連携機構に出向し、現職。

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