地域の元気を生み出すJA
元気な地域の食と農の根っこにJA女性部の歴史があった
JAグループは、一昨年開催の第29回JA全国大会において「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」を決議し、令和5年はその実践2年目となります。食と農の未来、国消国産運動の推進、地域の元気づくり、農福連携など、消費者の皆さまにも身近に感じられるテーマについて、全国各地のJAの取り組みを紹介します。
<福岡県:JA糸島>
JA糸島は、福岡市の西部に位置し、昭和37(1962)年11月に糸島郡3町の14農協と2連合会の合併により設立された。
設立から今日まで一貫して生産農協を標榜し、地域農業の振興と地域社会経済の活性化、組合員・地域住民の豊かなくらしの向上に取り組んでいる。
特に「JA糸島産直市場伊都菜彩」は全国のJAファーマーズマーケットの売上高で常にトップクラスの売り上げを誇っており、客層は福岡市を中心に、糸島市外からの来場者が7割を占めている。
1. 日本一の農畜産物直売所 ―JA糸島産直市場伊都菜彩
福岡県糸島市の田園地帯に、日本でも最大規模の農畜産物直売所である「JA糸島産直市場伊都菜彩」(以下、伊都菜彩)があります。広大な敷地に設けられた駐車場は、平日であっても自家用車で満車となり、休日になると大型観光バスも多く止まっています。
2007年に開店した伊都菜彩は1,506㎡と全国のJAファーマーズマーケットでも一、二を争う売り場面積を誇り、多くの利用者でにぎわっています。特徴の一つは、農畜産物だけではなく、漁協(JF糸島)の組合員が出荷する地域の新鮮な魚介類が豊富に販売されていることです。伊都菜彩に買い物に来れば、糸島地域の海の幸、山の幸が全て手に入れることができるという、いわば糸島地域の「食のアミューズメントパーク」です。
伊都菜彩に入ると、正面玄関から向かって左側には、糸島地区の花が数多く並んでいます。特に目を引くのは壁面を埋め尽くす、糸島地区の特産でもある「ラン」の鉢植えです。そして、その隣には、多くの切り花が出荷されており、多くの利用者が足を止めて切り花を手に取っています。
中央の農産物の棚は、取材当時(9月上旬)、夏野菜から秋野菜への切り替えの時期であったにもかかわらず、驚くほどの種類の葉物類、果菜類、根菜類、果実が並んでいます。この時期にこれだけの品目が並ぶJAファーマーズマーケットは、全国でもあまり見当たらないかもしれません。伝統的な野菜から、西洋野菜や中国野菜など珍しい品種の農産物も数多く販売されていました。
多くの農産物の隣には、手作りの弁当や菓子、パンなどの加工品が並び、その先には新鮮な魚介類、さらに奥には肉類や畜産加工品、手作りの総菜が並んでいます。どの棚も、次から次へと訪れる利用者によって品薄となり、常に出荷者の方が補充し続けていました。そして、地元の酪農家の乳製品の販売コーナーや、地元の食材をふんだんに使ったうどん屋も利用者が途絶えることはありませんでした。
2. 伊都菜彩の根っこを支える女性の力
伊都菜彩の正面では、赤字で「〇に糸」と描かれた大きな「まるいとマーク」を見ることができます。このマークは、1962年に合併して設立したJA糸島の顔として、60年以上、掲げられています。伊都菜彩で委託販売される農畜産物のおよそ97%は地元産で、「まるいとマーク」からは地域の豊かな自然の恵みと、その生産者の皆さんの誇りを感じることができます。
伊都菜彩の出荷者は、JA糸島の組合員とJF糸島の組合員で、2023年3月現在で1,516人、そのうち個人会員は1,279人(ほかにJAの生産部会名での登録などが237人)です。それぞれの農畜産物には、全て出荷者の名前が掲載されています。そして、農畜産物に限らず加工品などを手に取って気が付くことは、驚くほど、女性の出荷者が多いことです。JAのご担当者に伺うと、「出荷者は男性でも、実際に栽培している方は女性という場合も多い」との答えが返ってきました。女性の力が、伊都菜彩のバラエティーに富んだ、豊かな農畜産物を生み出しているのです。
伊都菜彩の売れ筋の加工品に、手作りのみそ(麦みそ)と、塩こうじ、万能こうじタレがあります。手作りのみそはJA糸島女性部(以下、JA女性部)が、塩こうじと万能こうじタレは「あぐりくらぶ」が出荷しています。手作りのみそは、JA女性部の食農部の活動として生産されていて、2022年度には23tを超える加工がありました。
そして、塩こうじと万能こうじタレを加工している「あぐりくらぶ」とは、JA女性部の中の組織(JA糸島本店の目的別グループの一つ)で、主にJA女性部の役員などをご経験された方が中心となって組織されています。塩こうじはさまざまな料理にも活用されますが、伊都菜彩では米こうじを使ったジェラートが人気商品になっています。また、万能こうじタレとは、別名「ピーマンみそ」といいます。ピーマンと塩こうじなどを使った調味料で、さまざまな食材に合う万能調味料です。
3. 4,000人が結集するJA女性部
JA糸島の女性部は、「正組合員家庭の女性」と、「女性部が行う事業およびその目的に賛同する准組合員の女性」から組織されています。
このうち「正組合員家庭の女性」がJA女性部の部員と位置付けられていることは、ほかのJAではあまり見られない特徴と言えるでしょう。すなわち、JA糸島の正組合員の家庭の女性は、みんなJA女性部の部員ということです。2022年度の実績でJA女性部は正組合員の家庭の女性が3,934人、准組合員の女性が165人の計4,099人となっています。
もちろん、活動への参加の頻度や、関わり方は部員ごとに異なります。しかし、地域の組合員の女性みんなが参加できる組織であること、言い換えるとみんなに門戸が開かれた組織と言えます。この幅の広さが、JA女性部の元気の源かもしれません。
JA女性部には、大きく4つの組織があります。その一つが、組織部です。組織部では、総会や役員会などの機関会議や、役員学習会などを実施しています。ほかには、子ども食堂への食材支援と調理支援や健康講座の開催なども実施しています。また、近年の特徴的な活動として食の支援「フードパントリー」の取り組みも目を引き付けます。
フードパントリーの取り組みは、コロナウイルス感染症の拡大下で、JA糸島管内の生活が苦しい家庭や管内に位置する九州大学の学生に食材などを支援する取り組みです。規格外の農産物をはじめとして、JA女性部員や地域住民から提供された食料や生活用品を集めて、2022年度は糸島市民を対象とした支援を夏休みと冬休みの期間に3回、九州大学の学生には12月に支援を実施しました。こうした取り組みが高い評価を受け、第64回全国家の光大会での体験発表「普及・文化活動の部」で全国農業協同組合中央会会長賞を受賞しています。
また、組織部の活動では女性部員の学びにも力を入れています。JA女性部の学びの場は、主に世代別に3つの機会が用意されています。おおむね40歳以上の方を対象とする女性大学「いきいきキャンパス」、40歳以下の方を対象とする「Cottonくらぶ」、おおむね60歳以上の方を対象とする「ふれあい大学」の3つです。それぞれの講座の内容は、主に『家の光』本誌を活用した料理教室や食品加工などが中心となっています。
このうち女性大学「いきいきキャンパス」は、2022年度で第9期となっていますが、その歴史は相当に長い積み重ねがあることが分かりました。「JA糸島女性部 20周年記念誌」によると、1989年に「婦人大学15周年大会」という記載があります。聞き取り調査の中では、「若妻グループ」という女性組織が本店で学習活動を行っていた歴史があり、この若妻グループの取り組みがこの婦人大学につながったとのことです。記載から振り返ると1974年には婦人大学が開催されており、さらにその前の若妻グループの学習活動があったことを考えると、JA糸島の取り組みは、農家女性の学習活動として全国のJAで取り組まれている女性大学の草分け的な存在かもしれません。
RANKING
人気記事ランキング