4. JA女性部の「自給5・5運動」
JA女性部には、先に見た組織部のほかに、食農部、教養文化部、共同購入委員会などの組織や、先に見た「あぐりくらぶ」をはじめとする本店の目的別グループや文化教室グループ、そして地区別のグループ活動があります。この中で特に目を引き付ける取り組みが、食農部の「にわとりヒナ配達」と、目的別グループの「卵々グループ」です。
2022年度の実績では、にわとりヒナの共同注文は501羽、にわとりワクチンはニューカッスル病などの予防ワクチンで908羽分(2回の配布の合計)が配布されました。「卵々グループ」は、にわとりの飼料(餌)を自ら作るグループで、3回の作業を行いました。安全で安心な飼料を、生産者自ら作るという取り組みです。
こうしたにわとりヒナの共同注文やにわとりワクチンの配布、飼料作りは、かつては少なくないJAで取り組まれた歴史がありますが、今日のJAの取り組みではあまり目にすることがありません。そのルーツは、1970年代の当時の農協婦人部(現在のJA女性組織のルーツの一つ)の「自給運動」にあると想定されます。1950年代以降、わが国では食の安全・安心にかかる事件などが少なからず発生した歴史があります。また、環境への関心が徐々に高まる中で、農家女性を中心として、安全で安心な農産物の自給を進めた運動が自給運動です。ちなみに、この運動が発展していき、今日の「地産地消」の運動や考え方が広まってきましたし、自給運動は余剰自給農産物の直接販売(庭先販売、無人市、軽トラ市、テント市など)を経て、今日の常設の農産物直売所、JAファーマーズマーケットにつながっています。
当時の農協婦人部では、自給運動を進めるために、それぞれの農協ごとにその運動方針を定めた歴史があります。この運動方針が、いまに残っているのがJA糸島のJA女性部です。現在のJA女性部の「具体的活動方針」の中には、「自給5・5運動を展開し自給率の向上と地産地消に努めます」と明記されています。自給5・5運動では、「①大豆をつくりましょう」「②家庭菜園を充実しましょう」「③家庭果樹を作りましょう」「④家畜を飼いましょう」「⑤手作り加工をしましょう」の5つの項目に加えて、その目標として「飲食費の50%を自給しましょう」が掲げられています。このうちの「④家畜を飼いましょう」が、今日も続くにわとりヒナの共同注文やにわとりワクチンの配布、飼料作りにつながっているのです。

5. 女性の取り組みの歴史が地域農業を支える
本記事の取材当日は、取材に対応いただいた女性部の皆さんが昼食をご用意してくださいました。メニューは、てんぷらめし(てんぷらごはん)、ご自慢の塩こうじを使った夏野菜の和え物、手作りのみそを使った具材がふんだんに入った豚汁、自家製のお漬物でした。このうち、てんぷらめしとは、福岡名物のかしわめしのかしわ(鶏肉)の代わりにてんぷら(魚のすり身を揚げたもの)を使ったご飯ものです。かしわめしよりあっさりしていながらも味わい深いおいしいご飯でした。
福岡県の郷土食として有名なかしわめしは、江戸時代の飢饉の際に、当時の福岡藩でにわとりの飼育を奨励したことが一つのルーツといわれています。そして、炊いたごはんにかしわ(鶏肉)とにんじん、ごぼうなどの具材を煮たものを混ぜ合わせたかしわめしは、ハレの食として今日につながっています。かしわの代わりにてんぷらを使用したてんぷらめしは、もしかすると普段の家庭食(ケの食)として農家の間で普及した知恵かもしれません。農家女性のくらしの知恵は、JA女性部の歴史的な取り組みの中で脈々と生き続けていると言えるのではないでしょうか。
JA糸島の役職員の皆さんや、JA女性部など組合員の皆さんとお話をしていると、たびたび耳にする言葉に「JA糸島は生産農協だから」という言葉があります。この「生産農協」という言葉には、農業に対する責任と誇りが込められているように感じます。伊都菜彩に入ると正面に、大きな「『糸島産』であること」という掛け軸を目にすることができます。そこには「糸島を心から愛し、しっかりと大地を踏みしめながら営々と、農業一筋に生き抜いてきた。」という一文があります。

伊都菜彩は、年間販売高が40億円を超え、その来客数も年間120万人以上という日本最大級のJAファーマーズマーケットです。その利用者の過半は、近隣の大都市である福岡市をはじめとして地域外の方が多いとのことです。地域外の利用者も引き付ける伊都菜彩の魅力は、その豊かな品ぞろえだけではなく、こうした生産者とJAの誇りにもあるのではないでしょうか。

そして、その生産者とJAの誇りの根っこには、「営々と」続けてきたJA女性部の皆さんの取り組みがあると思います。女性のくらしの知恵、そして女性の願いが、JA女性部の活動の中で大切にされてきたことが、今日のJA糸島の「生産農協」という誇りに、そして伊都菜彩の盛況につながっていることが分かりました。
JA糸島の女性部の「地産地消」の取り組みの歴史の積み重ねは、JAグループが掲げる「国消国産」という目標につながります。地域の取り組みの歴史に自信を持って、営々と積み重ねるJA女性部の力に、これからも期待したいと思います。