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本気で農業始めました

第10回 春に向けて進む準備
さらなる高みへ挑戦続く

フリーライター 久米千曲

 春に向けて果樹の剪定せんてい作業が進んでいます。新潟県田上町の山川仙六農園でも後継者の山川敏幸さん(35)は父・敏昭さん(67)と共に梅、桃、リンゴと開花の早い順に不要な枝を切り落とし樹形を整えます。採光や風通しを良くすることで安定生産につなげ、作業の効率を上げるためです。3月に入るとタケノコ掘りに向けた竹林の整備に、米作りやトマトやキュウリなど施設栽培の準備と続き、新しい農の暦が始まります。

早まる季節に対応 不安定でも売り先支えに

 農園近くにある園地で2月中旬、敏幸さんと敏昭さんは桃『あかつき』を剪定しました。剪定は開花前に終わらせるのが基本ですが、暖冬のため季節の展開が早まっています。「まずは梅の開花が早まりそう」と話す敏幸さんは枝の配置を丁寧に確認して作業します。敏昭さんは「収穫まで作業はたくさんあるけれど、剪定が落ち着けば3割が終わったという感覚です」とリズムよく枝を切り落としました。

父と共に桃の剪定をする敏幸さん

 開花の早まりをはじめ、天候の影響を受けるのが農業です。就農して4年になる敏幸さんは「昨年の猛暑をはじめ、夏から秋にかけては本当に大変でした。米の品質低下やリンゴの収量減など、生産だけに頼っていては不安定な職業であることを実感しました」と振り返ります。長女が誕生したばかりの年だっただけに「本当に子育てをやっていけるのかと不安になったこともありました」と敏幸さん。「複数の売り先があったのが大きな支えになりました」と話します。

先代の築いたものを大事に 足跡残す青年部活動にも尽力

 確定申告に向けて書類を精査したところ、経営を下支えしているのは代々受け継いできた梅干しなどの加工品やタケノコであることを確認しました。売り先は農園の無人販売所に加え、近くにある道の駅やJAの直売所などがあります。さらに今年度はSNS(交流サイト)のインスタグラムを使って農園の取り組みを紹介したり、年明けには地元のラジオ番組に出演したりするなど情報発信の可能性を見いだしました。根っこにある「先代の築きを大事に、ささいなことでも広く知ってもらいたい」という思いが敏幸さんを動かしました。

規格ごとに選別した梅の重さを確認する

農園敷地内にある加工施設で母と共に販売用漬物の準備をする敏幸さん㊨

早まる季節に対応 不安定でも売り先支えに

 敏幸さんは2月、所属するJAえちご中越なんかん青年部田上支部の支部長を務めることになりました。先輩農家らの“卒業”が重なり支部体制がコンパクトになる見込みですが、「少数精鋭で足跡を残すことができれば」と夢を描きます。その一つが特産のタケノコを生かした取り組みです。田上町では掘りたてのタケノコを購入できるイベントや竹林を生かしたアートプロジェクトなどを通じて地域ブランドとして竹を売り込んでいます。「生産現場でも竹を軸にしたストーリー性のある展開ができれば」と語る敏幸さん。さらなる高みを目指し挑戦は続きます。

アートプロジェクトの開催準備に向けて切り出した竹を運ぶ
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