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本気で農業始めました

第9回 収入を支える農産加工品
自然との闘い見据えた展開も

フリーライター 久米千曲

 雪国・新潟に欠かせない生産者の取り組みの一つに農産物の加工・販売があります。新潟県田上町の「山川仙六農園」は農作業と並行し年間を通じて加工品を作ります。農閑期の冬季は特に大切な作業で、後継者の山川敏幸さん(35)は家族と共に規格外の野菜やリンゴを使った商品作りに励みます。一方で、昨年末の大雪でブドウ棚が倒壊する被害を受け対応に追われました。自然との闘いを見据えた経営の在り方として、山川さんは収入を支える加工品の位置付けをあらためて考えています。

農産加工品への思いを語る山川さん

伝統の味に引き合い強く 30年超の実績で広がる売り場

 同農園が運営するコインロッカー式の無人直売所は1月下旬の週末、キャベツやリンゴ、加工品で充実していました。主力の梅干しをはじめ、ダイコンのたくあん漬けを2種類、キュウリの奈良漬、ハクサイのキムチ、芯をくりぬき輪切りにして乾燥させたリンゴチップスを用意し、価格は300円を中心にした設定です。「天気の落ち着いた週末は売れ行きが特にいいですね」と話す山川さんは空いたロッカーに甘酢で漬けたたくあんを次々に補充しました。
 加工品の製造・販売を始めて30年超の同農園。晩秋までに収穫したうち、色むらや傷などがあり販売できない青果物を生かそうと、敷地内に設けた加工施設を核に漬物作りを始めました。伝統の味を生かした商品は引き合いが強く、売り場も無人直売所だけでなくJAの直売所、道の駅に広がりました。

甘酢で漬けた「たくあん」を補充する

規格外リンゴにも脚光 安定化へ加工の可能性探る

 10年近く前に作り始めたのが「農家が作った干しりんご」です。食品乾燥機の導入がきっかけでした。収穫したリンゴの大半は生食用として販売しますが、例年、一定量の規格外が発生します。猛暑だった昨年は特に影響が大きく栽培する5品種のうち収穫・販売に至ったのは『ふじ』だけ。「日焼けをしたり、水分が抜けしわになったりした果実もあった」(山川さん)ため、規格外は例年に比べ1割ほど増えたといいます。
 生食用の選果が落ち着いた1月中旬から乾燥リンゴの製造・販売を始めましたが、売れ行きは好調です。乾燥しすぎていないしっとり感、無添加でかめばかむほど広がる味わいを求めるファンが多く、規格外リンゴが形を変えて脚光を浴びています。
 一方で、昨年末の雪害により新たな経営品目として期待していた『シャインマスカット』を含めてブドウ棚が倒壊、『巨峰』の木1本を残すだけの事態になりました。獣害対策も欠かせない畑だったことを含めて、「家族と共に今後の経営の方向性を考えた」と言う山川さんはこう続けました。「農産加工品は市場価格にも左右されずに販売できるし一定程度、収入の安定化につながるはずです」。母から引き継ぎ現在、食品衛生責任者を務める山川さんは将来の農業経営を見据え、栽培した大豆を使ったみそ造りの可能性を探る計画です。

リンゴの乾燥具合を確認する

商品として販売されている「農家が作った干しりんご」

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