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若者がみつめる食・農

農・食の未来を拓く高校生・大学生の研究

超促成栽培の県産サトイモで芋煮文化の継承と発展を

~山形県立村山産業高校 農業科学部の挑戦~
JA全中

「全国高校生 農業アクション大賞」について
 
 JA全中は毎日新聞社と連携し、農業高校(農業系学科があるなどの関連高校を含む)の生徒たちがグループとなって取り組む「農」や「食」に関するプロジェクトや課題研究を「全国高校生 農業アクション大賞」として支援・顕彰しています。
 農家の人たちなど地域と連携して実践する3か年の計画を募集し、毎年度15グループを認定。優れた実績を残したグループには、3年目に「大賞」や「準大賞」を贈ります。

 山形の郷土料理といえば、何を思い浮かべるでしょうか。「芋煮いもに」と答える方も多いと思います。しょうゆやみそをベースにした鍋料理で、主役は山形産のサトイモ。毎年秋には日本一の芋煮会も開催され、まさに「全国ブランド」です。
 村山産業高校の生徒たちは、意外なところに着目しました。市場調査で、県内では8、9月にサトイモの需要が増えていることが分かりました。「あなたは何月ごろから芋煮を食べたくなりますか?」とアンケートしたところ、8月から9月という答えがぐっと伸びており、調査結果を裏付けていることが分かりました。さらに6割の人は、「(サトイモは)県産が良い」と答えていました。
 一方で、県内ではその時期の収穫はなく、他県の産品を使わざるを得ないのが実情です。逆に、収穫最盛期の10月は全国的に販売価格が下がり、農家の収益が低くなることも分かりました。
 山形の「芋煮文化」を守るには、県民にもっと好きになってもらい、農家にも有利な生産方法が必要となってくる--。「それを提案したい」。生徒たちはこの思いで、活動を始めました。
 夏場にサトイモを出すには、収穫時期を早める必要があります。山形は雪国で、春が遅い。「それは難しい」といわれてきましたが、生徒たちは技術で解決しました。

「食」と「農」の課題解決に向け研究に取り組む

 一つは「逆さ植え」という栽培技法です。種芋の頂芽を下に向けて植えると収量が上がる、と地元でいわれていた技法ですが、実際にデータをとった調査は行われていませんでした。これを試みました。もう一つは、「ビニールトンネル」を使って苗を保温する対策です。二つを組み合わせた実証実験で、月に収穫できる超促成栽培に成功。1.6倍の収量アップと、15%の所得率向上につながることが分かりました。

ビニールトンネルを使った実証実験

 ところがここで、大きな問題に直面します。地元の農家と共同作業が進み出した矢先、農家から想定しなかった声が上がりました。
「春先の作業がきつい。もう協力はできない」。ビニールトンネルでの保温には、高温障害が起きる危険があります。それを避けるためには毎日、トンネルの開け閉め作業が要りますが、これが重い負担につながっていたのです。
「なんとかしなければ」と生徒らは実験を重ね、トンネルのふたを4分の1開けたまま放っておいた方が収量アップにつながるという結果を得ました。「裾換気」と呼ばれる方式です。シーズン10a当たり77時間の労働時間短縮を実現させました。

収穫作業中の高校生たち

 

 収穫された超促成栽培のサトイモは、とろっとした食感が好評です。地元スーパーで販売したところ、10月の通常価格より630円も高い1kg 980円の値が付き、即完売でした。需要の読みは的確でした。

「芋煮文化」の活性化のためには、消費者に喜んでもらった超促成栽培のサトイモを県内に根付かせる必要があります。動画を使ったマニュアルを作成し、生徒自らが「先生」役になって、農家への講習会を各地で開催。農家から上がる意見や情報を研究に生かすサイクルが生まれました。
 サトイモを使った関連商品の開発にも取り組みました。コロナ禍で、大規模な芋煮会ができなかった時期でもあり、それに代わる商品開発は「芋煮文化」の危機を救う切り札でもありました。市場調査を経て商品化した「芋煮コロッケパン」は、「道の駅むらやま」の看板メニューになりました。そして8月には、「日本一暑い芋煮会」を開催しました。
 農業科学部の村山美夏さんは「仲間と作り上げたことが認められてうれしい」と話します。彼女は3年生になる2023年度にはどのようなビジョンを描くのでしょうか。

収穫したサトイモを手にして

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