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地域の元気を生み出すJA

第29回JA全国大会決議をふまえた全国各地の創意工夫ある取り組み

TACと広報活動を組織全体で支え、組合員の声を聴き、応え、発信する

JA金沢市の取り組み
岩﨑真之介 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA)基礎研究部 副主任研究員

 JAグループは、一昨年開催の第29回JA全国大会において「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」を決議し、令和5年はその実践2年目となります。食と農の未来、国消国産運動の推進、地域の元気づくり、農福連携など、消費者の皆さまにも身近に感じられるテーマについて、全国各地のJAの取り組みを紹介します。

<地域の概況>
 JA金沢市の事業エリアである石川県金沢市は、約46万人の人口を抱える北陸地方の中枢的都市である。日本三名園の一つとして知られる兼六園、城下町としての風情を残す街並みなど、観光地としても人気を博している。農業は稲作中心で、サツマイモ、レンコンなどの「加賀野菜」や砂丘地帯におけるスイカの生産が盛んである。

JA金沢市の加賀野菜

1. 「TAC」とは何か

  JA金沢市では、「TAC」(「Team for Agricultural Coordination」の略)と呼ばれる農業の担い手のもとへ出向くことに特化した職員が精力的に活動している。TACはJA全農がコンセプトを提唱し運用システムを構築した取り組みである。
 JA金沢市では28人の職員がTACとして活動している。同JAは営農面事業の拠点施設として、農業資材等を扱うアグリセンター5か所と野菜や果物の集出荷場4か所を設置し、TACを配置している。組合員の利便性を高めるため、これらの拠点では職員の年間変形労働時間制を導入しており、年末年始とお盆を除いて毎日営業を行っている。
 TACの役割は、農業の担い手のもとに出向いて、JA事業に反映させるべく担い手の声を聴くとともに、担い手が抱えるさまざまな農業の課題解決に取り組むことである。各TACは、1人当たり20人前後の農家や農業法人を重点的に訪問する担い手に設定し、月に1回以上、担当する全ての担い手の自宅を訪問してコミュニケーションをとっている。

2. 担い手訪問と事前準備

 TACの担い手訪問では、担い手と良いコミュニケーションをとりニーズにかみ合った対応を行うために、訪問の事前準備が欠かせない。そのため、各アグリセンターや集出荷場ではTACと所長によるTACミーティングが毎朝行われ、訪問計画や担い手への対応について検討がなされる。また、各TACは訪問前に、各担い手の状況や前回までの訪問の経過を振り返り、どのような情報提供や提案を行うかをシミュレーションする。
 実際に自宅等に訪問し担い手と対面してからは、担い手の話を傾聴することが基本姿勢となる。

TACの担い手訪問

 作物の生育や経営管理などの農業に関わる事柄はもちろんのこと、“担い手本人や家族に変わりがないか”“くらしの困りごとが生じていないか”といったことにもTACは関心を向ける。JAは営農面事業だけでなく融資や共済、食農教育・体験、学びや趣味の活動、健康づくり活動、といった幅広い事業・活動を行っており、くらしの困りごとに役立てる場面は決して少なくないからである。
 また、傾聴といっても、担い手の状況を把握しニーズをつかむには話を引き出すことが必要であり、そのためのコミュニケーションはTACの腕が特に試される部分である。

担い手訪問時の会話のきっかけとなるツールとして、「アグリセンターだより」「集出荷場だより」を作成・配布している

3. 日常的に情報が部署を越えて循環

 訪問後、TACは事務所に戻り、聴き取った情報や提案した内容についてパソコンから「TACシステム」内の日報に入力する。
 同システムは、各JAの内部で担い手の情報を必要な担当者・部署に共有するため、JA全農が開発したものである。入力された内容は、そのJA内の他のTACや関係部署で閲覧が可能である。
 ただ、閲覧できることと実際に閲覧が行われることとの間には、往々にして大きな隔たりが存在する。同JAでは、情報を把握しておくべき部署への共有を徹底するため、2016年に本店に新設した「担い手支援室」に3人のTACを配置し、情報共有を促す役割を任せている(以下、担い手支援室のTACを「統括TAC」、アグリセンター・集出荷場のTACを「現場TAC」と表記〈※〉)。
 具体的には、現場TACが日々入力する日報を、統括TACが1週間単位で全て確認するとともに、プリントして関係部署(営農経済部経済課、同部米穀販売課、同部園芸販売課、総務部ふれあい相談課など)へ回覧させる。各部署では日報が届いたら内容を確認し、ライン長が確認印を押して次の部署へ回す。回覧中、重要な案件や注意を要する案件があれば、統括TACの注意を促すため該当箇所にマーカーが入れられる。

各部署の職員が回覧された日報を確認する

 日報はこのようにして関係部署を一巡するため、統括TACのもとへ戻るときにはいくつものマーカーが書き込まれている。統括TACは、それらマーカー入りの案件のうち、対応状況等をまだ把握していないものや対応に関して助言等を行うべきものについて、現場TACに状況確認や助言を行っている。
 このように、同JAではTACが集めた担い手の声やその対応状況に関する情報が、関係部署間を常によどみなく巡っている。

※同JAでは、担い手支援室のTACは「専任TAC」、アグリセンター・集出荷場のTACは「兼任TAC」と呼ばれている。本来は本稿でもこの正式名称を使用するべきであるが分かりやすさを考慮し「統括TAC」「現場TAC」という本稿限りの呼称を使用した。

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