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地域の元気を生み出すJA

第29回JA全国大会決議をふまえた全国各地の創意工夫ある取り組み

「パートナーズクラブ」による
准組合員の声に基づくJAづくり

JA香川県の取り組み
西井賢悟 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA)基礎研究部 主任研究員

 JAグループは令和3年開催の第29回JA全国大会において「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」を決議し、令和6年はその実践3年目となります。食と農の未来、国消国産運動の推進、地域の元気づくり、農福連携など、消費者の皆さまにも身近に感じられるテーマについて、全国各地のJAの取り組みを紹介します。

<香川県:JA香川県>
 JA香川県は同県全域をエリアとする1県1JAである。香川県は瀬戸内海に面する四国の北東部に位置し、面積は全国で最も小さく、人口は約95万人。特徴的な産業として、革製手袋製造業、船体ブロック製造業、冷凍調理食品製造業、麺類製造業などが挙げられる。農業においては、1年を通して温暖で雨の少ない気候条件の下、収益性の高い作物を中心にブロッコリー、レタス、金時にんじん、マーガレットなどの栽培が盛んとなっている。

1. 准組合員の声を聞く「パートナーズクラブ」

 JA香川県では、2022年度から准組合員を対象とする「JA香川県パートナーズクラブ」に取り組んでいる。後述するがJAの組合員資格には2種類あり、農業を営む人は正組合員、農業を営まない人は准組合員として加入することとなっている。准組合員を対象としている同クラブは、地域農業やJAに対する理解を深めてもらうこと、そしてJAの事業や運営に対する意見を出してもらうことなどを目的としている。
 初年度は、モデル実施として同JA管内の中央・仲多度の2地区から6人ずつ、計12人の准組合員を対象として、10月・12月・翌2月の計3回にわたって開催された。
 10月の第1回では、「消費者から望まれる産直」をテーマとして、同JAのファーマーズマーケット「さんさん広場 飯山店」の見学、そして農産物の出荷者および従業員等との意見交換が行われた。12月の第2回では、「食と農業の体験」をテーマとして、高松市香川町の特産である柿の収穫体験やJA集荷場での出荷作業体験、さらに参加メンバーによる「食と農の大切さ」についてのグループワークが行われた。
 そして翌2月の第3回では、「消費者に伝わる情報発信」をテーマとして、同JAによる広報活動(広報誌やInstagram・YouTube)についての紹介、「組合員に伝わる情報発信」についてのグループワークが行われた。最終回となるこの回では、各回での意見を「提言書」としてまとめるためのグループワークも行われ、実際にとりまとめられた内容は各グループの代表によって読み上げられるとともに、同JAの村川進・代表理事理事長に直接手渡された。その後は、同理事長を含む役員との車座での意見交換会も行われた。

グループワークではさまざまな意見が出される

提言書は理事長へ手渡しされた

 提言書を受け取った村川理事長は、「とても率直な意見からユニークなアイデアまでたくさんいただき、感謝いたします。提言書を持ち帰って役員会などで検討し、可能なものから実現していきたいと思います」と述べた。
 一方、参加した准組合員からは、「これくらいの人数だと話しやすくてよかったと思います」「同じ地域の参加者同士で話ができて、JAの取り組みについても知ることができました」「これからも協力できることがあればしていきたいです」などの感想が聞かれた。

2. 正組合員と准組合員

 JAの正式名称は農業協同組合である。しかしその営む事業は、営農指導事業や農産物販売事業など農業に関わる事業に限らず、信用事業、共済事業、生活購買事業、医療・福祉事業など多岐にわたる。それらの事業の中には、農業を営まない地域住民にとっても利用価値の高いものが多い。こうしたことから、JAは明治時代の誕生以来(当初は産業組合としてスタート)、農業を営まない人も加入できる協同組合として存続してきた。
 ただし、戦後再出発する際に、当時日本を統治していたGHQや政府の方針により、農業を営む人を中心とする組織であることを明確にすることとなった。そして、正組合員(農業を営む人)・准組合員(農業を営まない当該地域に住む人)という組合員区分が設けられ、事業の利用や活動への参加についてはどちらも可能とされる一方で、一人一票に基づく議決権については正組合員に限ることとされた。
 その後、時は流れた。わが国は高度経済成長を経て、経済の中心が1次産業から2次・3次産業へとシフトしていった。その傾向は今日に至るまで変わらず続いている。こうした産業構造の変化の下で、正組合員は減少が続くこととなった。
 一方、准組合員はどうかといえば、正組合員数の動きとは全く反対に、その数が増加し続けてきた。それはとりもなおさず、JAの信用事業や共済事業などがその地域に住む人にとって魅力的であり続けてきたためといえるだろう。全国のJA全体では、2009年度末に正組合員と准組合員の数が逆転し、後者の方が多くなっている。
 こうした状況はJA香川県も同様である。同JAにおいても正組合員の減少と准組合員の増加が続き(図1参照)、全国から少し遅れて2014年度末に正・准組合員の数が逆転、その後その差は広がり続けており、2020年度末においては計14万人の組合員のうち57.6%を准組合員が占めるようになっている。

図1:JA香川県における正・准組合員数の推移

3. 「地域農業の応援団」としての准組合員

 このような組合員構成の変化をJAグループは傍観してきたわけではない。地域農業振興のための事業に力を入れるのは当然のこととして、准組合員にとっても魅力的なJAであるために、同組合員のニーズが高いと考えられるファーマーズマーケットや介護事業、地域に根ざした生活文化活動などにも力を入れてきた。
 そして近年ではさらに踏み込み、JAが目指す姿を「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」と定義し、その中で准組合員を「地域農業の応援団」と位置付け、さらに同組合員の声を事業・運営により反映させていくための取り組みを強化している。
 JA香川県は、こうした方向でのJAの革新に精力的に取り組んできたJAといえる。同JAでは、近年になって准組合員を「正組合員とともに、香川の農業や地域の発展を支える組合員」であり、「地域農業の応援団」であるとして、その位置付けを整理している(「准組合員にかかる意思反映・運営参画促進要領」、第2条より)。
 そして、准組合員の声を聞くための取り組みとして、前述の「JA香川県パートナーズクラブ」をはじめ、Instagram やFacebookを活用した情報発信と意見収集、「一日訪問活動」による戸別訪問とそこでの対話を通じた意見収集、支店運営委員会や直売所モニターへの登用を通じた意見収集など、多様な取り組みを通じて准組合員の声を集めている。
 こうした取り組みを通じて、JA香川県は「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」という自らの目指す姿へ近づこうとしているのである。

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