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4. 准組合員交流会からパートナーズクラブへ

 ところで、「JA香川県パートナーズクラブ」はにわかに始められたものではない。同JAでは2016年度に准組合員との「意見交換会」を開催し、それを2017年度から「准組合員交流会」として発展させ、そして同交流会を継続したまま、2022年度から新たにパートナーズクラブに着手している。
 ここでパートナーズクラブの前段の取り組みである准組合員交流会を見ておこう。同交流会は、支店・出張所を束ねる県内18店の統括店(現在は12店)がそれぞれ年1回開催している。各統括店は管内40人程度の准組合員を募り、JAの施設や直売所の見学、特産農産物の収穫体験など、それぞれの地域の特色を生かした内容で会を企画している。
 また、特徴的な点として、必ず1~2人のJA役員が同行し、参加する准組合員との意見交換を行っていることが挙げられる。そこで出された意見は、経営管理委員会や理事会に報告され、組合運営に反映されることとなっている。
 では、実際の取り組み例として、2019年度に志度統括店(現:さぬき統括店)で開かれた准組合員交流会を見ていこう。開催日は平日の1月30日、参加した准組合員は31人、木内秀一・代表理事理事長(当時)と数人の職員が同行した。
 朝、支店で参加者を乗せたバスは、まず高松市内にある「JA産直 空の街」に向かった。地元の農産物・加工品に触れるとともに、それぞれ楽しみながら買い物が行われた。
 次に向かったのは、同JAのグループ会社である株式会社JA香川県フードサービス。同社では県内の養鶏農家から集めた卵の洗浄・検査・パック詰めなどが行われており、参加者はその様子を視察。
 その後旧四国大川支店の「いこいの場」に移動して昼食会。そこには地域女性部長も参加し、昼食として振る舞われた手作り弁当の説明や女性部活動の紹介などが行われた。
 昼食会の後はJA役員を交えての意見交換会。同会の中では「特産品をブランド化してほしい。ふるさと納税の返礼品にできないか」「女性部が地域の清掃活動などをしていると知りました。ぜひ参加してみたい」などの意見・感想が出された。
 意見交換会の後は再びバスに乗り、ミニトマト部会長のハウスを視察。その後参加者は最寄り支店へと送り届けられ、ようやく解散となった。
 以上のように、准組合員交流会は参加者が学びながら意見を出す場となっている。その内容はきわめて充実しているように見受けられる。ただし、2017年度からスタートして年を重ねる中で、参加者の固定化や内容のワンパターン化など、いわゆるマンネリ化の傾向も感じられるようになっていった。そこで同JAでは、「JA香川県パートナーズクラブ」に新たに着手することとしたのである。

5. 進化するパートナーズクラブ

 1年目のモデル実施を経て、2年目の今年度からパートナーズクラブは本格実施を迎えている。対象エリアを2地区から全域(6地区)に広げ、現在12店ある統括店ごとに2人、計24人の准組合員を募り、人数が増えることによって意見を出しにくくなることがないように、居住地に応じて東西2ブロックに分けて開催している。参加者の平均年齢は46歳、男女比はほぼ半々で、男女ともに勤めを持つ人が大半となっている。
 1年目と同様に開催回数は3回で、第1回(東ブロック10月、西ブロック9月開催)は「JAって何!?」をテーマに、JA職員による同JAの紹介、支店や直売所等のJA施設の見学、そしてJAに対するイメージについてのグループワークが行われた。

直売所を見学する参加者

 第2回(東・西ブロックともに11月開催)は「JAふれあい感謝祭に参加!」をテーマに、まず統括店で開かれる感謝祭の視察が行われた。その際、同クラブの参加者が普段とは異なる感謝祭を体験できるように、東ブロックの参加者は西ブロックの感謝祭、西ブロックの参加者は東ブロックの感謝祭を視察するよう工夫が施された。感謝祭の視察後は支店が取り組んでいる広報活動について学び、その後「魅力ある支店にするために」をテーマとするグループワークが行われた。
 第3回は東・西ブロックともに今年の1月下旬に開催を予定しており、「JA信用・共済事業の商品・サービスとは!?」をテーマに、JA支店が取り扱う商品やサービスを学び、その後JA役員も交えた意見交換を行うこととしている。
 このように、2年目も初年度と同様に、地域農業やJAに対する理解を深めてもらいながら、JAの事業や運営に対する意見を出してもらうための取り組みが展開している。
 一方、参加者から出された意見に対する対応も着実に進められている。1年目の提言書においては、例えば「讃さん広場 飯山店」に対する提言として、①イートインスペース等の設置(コープかがわとの連携)、②手に取りたくなる情報の発信(POP等)、③「讃さん広場 飯山店」独自のSNSアカウントの作成などが提起された。
 これらの提言に対し、①については、実際にイートインスペースを設置するとともに、コープかがわとのコラボ商品(ドーナツ)の販売に着手し、②については、大手前高松中学校・生徒とのコラボによるPOPを作成し、③については、讃さん広場独自のSNSアカウントを開設するなど、それぞれ具体策が進展している。
 同JAでは、こうした提言に対する対応状況や、現在のパートナーズクラブの取り組み状況を「JA香川県パートナーズクラブ通信」としてまとめ、1年目および現在の参加者に対して届けている。そして今後も同クラブ通信の発信を続けるとともに、長期的にはパートナーズクラブに参加した准組合員を組織化し、定期的に声を聞くことができるようにしたいと考えている。また、「准組合員交流会」の内容の見直しを図りながら同クラブとのすみ分けを図り、多くの准組合員の声を集められる重層的な仕組みを構築したいと考えている。
(資料1 パートナーズクラブ通信)

6. 准組合員の声を引き出す職員のホスピタリティー

 パートナーズクラブの事務局を務める本店総務部・組合員課や統括店・総合課の職員からは、「回を追うごとに事務局も含めて仲間意識が高まる」「参加者がJAのことを一生懸命考えてくれることがうれしい」などの声が聞かれた。
 こうした声からは、同クラブに参加している准組合員にとって楽しく学べる場となっていること、そして主体的・能動的に関わっていることがうかがわれる。このような状況をつくり出すことができているのは、事務局の努力によるところが大きいと考えられる。
 同JAの事務局では、参加者に楽しさや驚きを持ってもらえるよう視察先の選定に工夫を凝らし、JAのことを紹介するための分かりやすい資料づくりに努めている。グループワークでの進行役は事務局が務めているが、参加者が少しでも意見を出しやすくするために、全員の名前を覚えることはもちろん、事前にファシリテーション研修を受講して同クラブに臨んでいる。
 JA香川県が展開する「JA香川県パートナーズクラブ」は、まさに職員のホスピタリティーによって支えられているといえるだろう。

西井賢悟 にしい・けんご

1978年東京都生まれ。岡山大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了。博士(農学)。一般社団法人長野県農協地域開発機構研究員を経て、2016年4月より一般社団法人JC総研(現JCA)主任研究員。著書に『信頼型マネジメントによる農協生産部会の革新』(単著)、『事例から学ぶ 組合員と進めるJA自己改革』(編著)。

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