文字サイズ

本気で農業始めました

第2回 週1回は母校で非常勤講師

農家経験も生かし伝える
フリーライター 久米千曲

<前号からの続き>
 北陸の小京都、新潟県加茂市に今年、創立120周年を迎えた加茂農林高校があります。隣接する田上町で家族と農業を営む山川敏幸さん(34)は母校である同校に週1回通い、非常勤講師として「農業機械」の授業を担当します。
 6月上旬、敷地内にある農業実習棟で、農作業に欠かせない農機を動かす燃料の種類や特徴を教えるとともにトラクターを実際に動かす授業をしました。山川さんにとって加茂農林高校はいろいろな意味で青春が詰まった場所です。

1904年に建立された赤レンガ積みの校門。国の登録有形文化財に登録された高校のシンボルだ

農業機械室で燃料の特徴などを説明する山川さん

教育実習を機に教師へ 新たな学びで財産築くも退職

 教育現場に入るきっかけは教育実習でした。「短い期間でしたが生徒に農業を教える職業も悪くないなと思いました」という山川さん。卒業後の進路を民間への就職から農業高校教諭に切り替えました。
 その後、加茂農林高校を振り出しに教諭として上越市や佐渡市にある高校で勤務。教師生活9年目に入る2019年春に再び母校に戻りましたが、教諭として勤務した高校で担当した分野は幼少期からの経験を生かせるものではありませんでした。今では山川さんの財産となりましたが、生物工学や林業、食品、草花などです。
 教諭としての在職期間が長くなる中、ふと考えることがありました。「学校で農業を教えていながら農業で食べていない」「実際に農業をしていないのに教えている」――。教師としての将来を含めて考えた結果、新たに選んだのは実家を継ぐ農家でした。2020年3月、母校での勤務を最後に退職しました。

農家としての非常勤講師 経験に基づく授業「幅広がる」

 ところが、思いがけず非常勤講師の依頼が舞い込んできました。農家1年目の2020年4月には早くも週1回の非常勤講師としてスタートしました。担当する「農業機械」は農作業に欠かせない分野です。6月の授業でもトラクターなどを動かすディーゼルエンジンの燃料となる軽油が「他の燃料と区別するために薄い黄色でないものもあるようです。実家の軽油がそうでした」と経験に基づく話題を展開、最近の燃油高の背景にも触れます。「生きていく根幹となる作物を生み出す基礎知識を教えたい」との思いは変わりません。
 同校も「教職経験があり、農業を実践しているので授業の幅が広がっている」と評価します。今年度からは教員として駆け出した当時、母校に在籍していた生徒が農機メーカーを経て非常勤講師として勤務、山川さんの新たな刺激になっています。

実習棟前のスペースで生徒にトラクターの操作方法を教える山川さん(左)


後輩の非常勤講師と共にエンジンを確認する

現場を知り理解できる消費者に 農家経験生かした学校での奮闘続く

 週1回の授業が終われば、農作業に戻ります。肥料や燃料だけでなく梅干しなど加工品を入れる袋など生産資材が値上がりしているにもかかわらず農産物の価格の見直しがなかなか進まない実態が続きます。「栽培の苦労など現場の今を知り、食の大切さを理解できる消費者になってほしい」と願う山川さん。農家の経験を生かし、伝える学校現場での奮闘は続きます。

記事一覧ページへ戻る