文字サイズ

本気で農業始めました

第3回 昔ながらの「梅干し」が評価

栽培から約30年、主力商品に
フリーライター 久米千曲

<前号からの続き>
 新潟県内でも有数の梅産地である田上町。丘陵地帯にある梅林公園の入り口に農家の後継者、山川敏幸さん(34)が家族と共に経営する梅畑があります。地元の特産「こしの梅」の栽培を始めて約30年。加工した「梅干し」はすっぱくて、しょっぱい、昔ながらの味わいが特徴でここ数年、需要に追いつかないほどの人気を呼んでいます。

梅畑で収穫する山川さん

傾斜地の梅畑でも収穫 「応援あっての作業」に感謝

 栽培に乗り出した30年ほど前、梅は高値で販売できる品目として注目されていました。生産から加工・販売まで一貫して手掛けられる魅力があります。風土に合ったおいしい「田上の梅」として県内でも有数の産地に成長しました。
 山川家の梅畑は道路を挟んだ両側に計10aあります。今年は春先に暖かい日が続き生育が早まった影響で、例年よりも早い6月中旬に収穫。両親の他、親類や父の友人ら知人の応援を受けました。傾斜地の畑もあり3m近く伸びる脚立が倒れないよう細心の注意を払います。収穫後はJAの施設に梅を運び、共同利用の機械を使って選果。その後、自宅に戻り祖母も加わり農舎で選別します。3L、2Lといった規格別に実が割れたり切れ目が入ったりしていないかどうか夕方まで確認を続けます。山川さんは「応援あっての作業」と感謝します。

家族や親類、父の友人らと協力してもぎ取った「越の梅」

規格ごとに選別した梅の重さを量る山川さん

シンプルな味わいが心つかむ 売れ行き好調で主力に躍り出る

 塩とシソを使ったシンプルな味わいの梅干しはここ数年、消費者の心をつかんでいます。「子どもの頃はしょっぱい梅干しがそれほど好みではなかった」と明かす山川さん。年を重ねるとともに梅干し入りのおにぎりを好んで食べ、農家になってからは剪定せんてい、防除、収穫、加工、販売に関わります。母と共に担う塩漬けは、師匠でもある祖母のお墨付きがつく腕前です。
 実際に運営するコインロッカー式無人直売所や販売先の道の駅、JAの農産物直売所などで売れ行きが好調、今年は5月下旬には完売しました。販売向けの加工品は複数ありますが、梅干しは「主力商品の一つ」(山川さん)に躍り出ました。

人気を呼んでいる梅干し

暮らしとつながる側面 新たな視点をヒントに一歩

 農産物として接してきた梅に、新たな視点で注目する家族がいます。妻の菜生さん(33)です。京都の有名な植物染めの工房で機織はたおりをしていた経験があります。2年前の冬、家族が剪定した梅の枝を煮出して染めたところ、菜生さんは「りんとした雪国らしさを感じました」と振り返ります。「暮らしとつながる側面がある」(菜生さん)からこそ、経験を生かした農業を知ってもらうモノづくりを考えます。
 山川さんは「食べるモノづくりを中心にしてきた農家にとって想像できなかった世界。新たな気付きでした」と目を輝かせます。子どもの頃からなじみ深い梅を、より広く消費者に知ってもらうための新たな一歩を生み出すヒントになりそうです。

剪定した梅の枝を煮出した汁で染めた糸

記事一覧ページへ戻る