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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

大統領選挙イヤー

[January/vol.151]
菅野英志(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 2024年はアメリカ大統領選挙の年である。アメリカ大統領の影響力は言うに及ばないが、東欧や中東での戦争をはじめ世界情勢が不安定な中で、今年の大統領選挙にはますます注目が集まるだろう。

 11月5日の投票日(本選挙)に向け、現在は民主党・共和党両党において候補者選びが行われている段階である。1月15日のアイオワ州における共和党の党員集会を皮切りに、各州で予備選挙や党員集会が順次実施され、勝算がないと判断した候補者は選挙戦から撤退し、3月5日の“スーパーチューズデー¹”を過ぎた頃にはある程度候補者が絞られるのが通例である。その後、夏の全国党大会で両党の大統領候補が正式に指名され、以降、一騎打ちの戦いが繰り広げられていく。

 本号執筆時点(2023年11月下旬)での両党の候補者選びの状況は以下の通りである。

 まず民主党側では、現職のバイデン大統領が再選を目指して出馬しており、他の有力候補はバイデン支持に回っている中で、通常で言えばバイデン大統領が夏の党大会で民主党の候補者に正式に指名される可能性が高い。ネックとなるのは年齢と健康状態で、最近81歳の誕生日を迎えたバイデン大統領が再選されれば、就任時には82歳、任期末には86歳となり、自身が持つアメリカ大統領最高齢記録を更新し続けることとなるが、最近でも言い間違えや失言が目立ち、大統領職の遂行能力を不安視する有権者は多い。さらに、バイデン大統領とともに再選を目指すハリス副大統領の不人気も民主党内では悩みの種となっている。副大統領は大統領に不測の事態が生じた場合にその職を継承することになるため(継承順位1位)、高齢の大統領が再選を目指す中で、副大統領の資質や能力が通常以上に重要な論点として浮上している。“プランB”を望む民主党支持者も多いが、現時点で目立った動きは見られていない。

 共和党側では、トランプ前大統領が依然として独走状態にある。世論調査を分析するFiveThirtyEightの集計によれば、トランプ前大統領の支持率は60%に迫っており、次点のデサンティス・フロリダ州知事(12.4%)やヘイリー元国連大使(9.8%)、実業家のラマスワミ氏(5.1%)らを大きく引き離してリードしている²。トランプ前大統領は4件の刑事事件で起訴されるなど問題を抱えているが、支持率は低下しておらず、むしろ共和党支持者の3割近くを占めるといわれる根強い岩盤支持層³の結束が強まる結果となっている。他の候補者たちは、トランプ前大統領との差別化を図ろうとするものの、反トランプでは票が不十分であり、親トランプでは本人に及ばないという難しい状況に置かれている。

 多くの有権者が望んでいないという調査もあるものの、現時点では、今年の大統領選挙はバイデン大統領とトランプ前大統領の再戦が濃厚となっている。

 民主党・共和党以外の動きとしては、ケネディ元大統領のおいで弁護士のロバート・ケネディ・ジュニア氏が民主党を離党して無所属で大統領選に出馬している他、最近ではウエストバージニア州選出のマンチン上院議員(民主党)が無所属での出馬を検討しているとの報道もある。二大政党制が定着しているアメリカにおいて第三勢力の候補者が大統領選挙を制する可能性は低いが、彼らの動きが選挙に与える影響は注視しておく必要がある。また、元プロレスラーで俳優のドウェイン・ジョンソン氏(“ザ・ロック”)が複数の党から大統領選挙への出馬を打診されているとのうわさがあるが、こうしたビッグネームの登場で今後の流れが大きく変わる可能性もある。

 アメリカでは民主党が強い州と共和党が強い州で分かれており、本選挙ではいくつかの激戦州(スイングステート)がカギを握ることになるが、この話はまた別の機会に譲るとして、最近の議会の動向にも少し触れたい。

 アメリカ史上初となる下院議長の解任劇後、約3週間の空席を経て、新たな下院議長にルイジアナ州選出のマイク・ジョンソン下院議員(共和党)が就任した。就任後、政府閉鎖回避に必要な2024会計年度⁴の予算継続決議(つなぎ予算)を通したが、今回は下院民主党の協力を得た形であり、本予算の成立に向けて共和党内をまとめられるかどうか、新下院議長の手腕が新年早々試されることになる。

 アメリカの農業者にとっては、今回の予算継続決議の成立とあわせ、昨年9月に失効していた2018年アメリカ農業法が1年間延長されたことが注目すべきニュースであった。実質的に1年間の議論の猶予が生まれたが、今年は秋に大統領選挙を控え議会日程が窮屈となる中で、新たな農業法の成立時期についてはまだ不透明な部分が多い。

 新下院議長の地元ルイジアナ州はサトウキビや米の産地として有名である。USAライス連合会は、米の主産地から下院議長が選出されたのは30年以上ぶりであるとして、ジョンソン議員の下院議長就任を祝福する声明を発表した。専門家によれば、下院議長等議会幹部は雇用できる議員スタッフの数も多く、就任を機に地元の関係団体がその議員のもとにスタッフを送り込むことも珍しくないようで、これは日本ではあまり見られない面白い慣習である。

1 多くの州で予備選挙・党員集会が行われる日であり、候補者が全国的な支持を得られるかどうかの大きな試金石となる。

2 支持率の数値はいずれも2023年11月27日時点。

3 保守的な共和党支持の白人(反エスタブリッシュ)、極右過激派、保守的な公職者等で構成。

4 2023年10月~2024年9月。

2023年11月20日、ホワイトハウスの感謝祭恒例行事で演説するバイデン大統領(ABC Newsより)

2023年11月8日、フロリダ州の選挙集会で演説するトランプ前大統領(Washington Postより)

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