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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

農村部への投資

[February/vol.152]
菅野英志(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 バイデン政権は2023年11月1日から2週間にわたり、大統領や閣僚および政府高官がアメリカの農村部を行脚する一連のイベントを実施した(Investing in Rural America Event Series)。これは、バイデン政権の投資(支援)がいかに農家に新たな収入をもたらし、地方の町や地域社会の経済発展を促進し、全米中で多くの機会を提供しているかを地方各地でアピールするもので、今回のイベントとあわせて農村部への50億ドルを超える新規投資も発表された。

 イベント初日には、バイデン大統領がヴィルサック農務長官とともにミネソタ州の家族経営の養豚農家を訪れ、視察や演説を行った。バイデン大統領は、これまでのトリクルダウン経済学が特に農村部に大きな打撃を与えているとして、農家は規模を拡大するか撤退するか(Get Big or Get Out)を迫られる中で小規模な家族経営の農家が減少していることや、若者は良い職を求めて故郷を離れざるを得ない状況にあること、食肉企業や小売りチェーンの統合が農家の選択肢を奪い交渉力を低下させたことなど、アメリカの農村部が抱える問題に関して現状認識を述べ、ハートランド(中西部)の復活を監督すると約束した。

 ホワイトハウスが公表したファクトシートでは、バイデン政権が取り組んでいる農村部への投資(支援)の具体的な内容として、以下のようなものが挙げられている。

〇競争を促進する新しくより良い農業市場の創出

・ 少数の大手食肉・食鳥企業への依存を減らし、農家により多くの市場の選択肢と公正な価格を提供するため、独立系の食肉処理・加工施設の増強に10億ドルを投資。

・ アメリカ産肥料の生産を増加させ、農村地域に雇用を創出し、農家により多くの選択肢を提供するため、肥料生産拡大プログラムに9億ドルを投資。これは肥料コストの上昇緩和にも寄与する。

〇気候変動に配慮した農業(Climate-Smart Agriculture)への投資

・ 画期的な「気候変動に配慮した商品のためのパートナーシップ」イニシアチブを通じ、気候変動に配慮した方法で生産されたアメリカ産商品の市場機会の構築と拡大を目指す141のプロジェクトに31億ドル以上を投資。

・ 炭素隔離や温室効果ガスの排出削減を通じて気候変動を緩和し、農業の強靭きょうじん性を高めるだけでなく、家族経営の農家に新たな収入源と市場機会を提供する。

〇農村インフラへの投資、清潔な水の供給

・ 手頃な価格で信頼できる高速インターネットの整備に650億ドルを投資。

・ 農村部の家族が必要な場所に移動できるようにするため、車両やインフラの整備など地方の交通システムの改善等に数十億ドルを投資。

・ 安価で清潔な飲料水へのアクセスを確保し、地方での生活の質を改善するため、上下水道のインフラ整備に550億ドルを投資。

〇エネルギーコストの削減

・ 再生可能エネルギーシステム等の導入に向け農村電気協同組合に97億ドルを投資。

・ 国産バイオ燃料の利用の拡大に向け最大5億ドルを投資。

〇地元および地域の食料システムの強化

・ 農家や地域の食品事業者による地元の顧客の獲得等を支援する地域食品事業センターを設立するなど、地元と地域の食料システムに投資。

・ 農村部の医療費を引き下げ、農村部における質の高い医療へのアクセスを支援。

 民主党が苦手とする農村部に焦点を当て、かつ大統領選挙の激戦州の一つであるミネソタ州からスタートしたことを踏まえれば、今秋の選挙を強く意識したイベントであることは明らかであるが、一方でアメリカでも農村部が疲弊していることは事実である。気候変動対策を家族経営の新たな収入源としても機能させようとしている点などは、日本でも検討の価値があるのではないだろうか。


2023年11月1日、訪問した農家の農機具小屋で演説するバイデン大統領(ホワイトハウスの公表動画より)
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