文字サイズ

海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

アメリカ農務省第100回 農業アウトルックフォーラム

[April/vol.154]
菅野英志(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 アメリカ農務省が例年2月に開催する農業アウトルックフォーラムが今年で100回目を迎えた。このフォーラムでは、主要品目の需給や価格の見通し等について農務省や専門家から報告が行われる他、その時々の情勢に応じたさまざまなテーマのセッションが設けられる。アメリカ農務省が主催するものとしては最大規模の年次イベントで、今年は2月15、16日の2日間の日程で開催され、約1,700人の実参加および数千人のオンライン参加があった模様である。

 記念すべき第100回のフォーラムのテーマは「Cultivating the Future(未来をひらく)」。基調講演に立ったビルサック農務長官は、生産性が向上する一方、一部の大規模農家に富が集中し、農家数や農地面積が減少している現状を憂いた上で、新たな収入源の創出や地域の食料システムの強化などを通じ、あらゆる規模の農業者が繁栄できる新たなモデルの構築に農務省が取り組んでいることを強調した。

「アメリカ農業貿易の100年」と名付けられたセッションでは、アメリカにおける過去100年間の農産物貿易の変遷を振り返り、機械化を含む戦後の生産性向上やGATT(関税および貿易に関する一般協定)における互恵的な関税の引き下げ、FTA(自由貿易協定)の進展、包装技術革新などによりアメリカ産農産物の輸出が拡大してきた経緯が紹介された。同セッションに登場したアメリカ農務省のテイラー農務次官は、アメリカ産農産物の輸出の約60%が4つの市場(中国、メキシコ、カナダ、EU)に集中している現状を踏まえ、輸出先国の多様化を推進・支援している旨の説明を行った。

 別のセッションで講演したアメリカ通商代表部のタイ代表は、貿易政策に関するバイデン政権のこれまでの取り組みの成果や現状¹を述べるとともに、2024年度に農産物貿易赤字が拡大する見通し²に関しては、国際市場においてアメリカの消費者の購買力が強いこと、高価な蒸留酒やトロピカルフルーツ、コーヒーなどアメリカであまり生産されていない産品の輸入が増えていることが主な要因だとして、重要視していないとの認識を示した。

 主要穀物の見通しに関するセッションでは、2023/24年産³、2024/25年産のとうもろこし、大豆、小麦の需給および価格について、いずれも需給は緩和傾向にあり、期末在庫は増加し、価格は低下していくとの予測が示された。これは日本の畜産農家等にとっては良い兆しであるが、生産コストが高止まりを続ける中で、アメリカの穀物生産農家にとっては不満が募る状況が続くことを意味する。今回のフォーラムにおいて現政権の貿易政策に関して新たな方針等は特段示されなかったが、こうした農家の不満や前述の農産物貿易赤字の拡大は、関税削減・撤廃を含むより積極的な貿易政策を求める声の高まりにつながっていくと考えられるため、政権や議会の動向に引き続き注視が必要である。

1 インドの関税引き下げ・撤廃、日本のアメリカ産牛肉輸入にかかるセーフガード措置の修正、メキシコのとうもろこし輸入禁止措置に対する紛争解決協議の継続など。
2 農務省は、2024年度(2023年10月~2024年9月)の農産物輸出額を1,695億ドル、輸入額を2,000億ドルと予測している
3 とうもろこしと大豆の年産は9月~8月、小麦の年産は6月~5月。
記事一覧ページへ戻る