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若者がみつめる食・農

農・食の未来を拓く高校生・大学生の研究

第5回(2021年度)全国高校生 農業アクション大賞 大賞受賞
いただいた命の重さを受けとめ、最大限に活用する

~熊本県立熊本農業高 養豚プロジェクト班の挑戦~
JA全中

「全国高校生 農業アクション大賞」について
 
 JA全中は毎日新聞社と連携し、農業高校(農業系学科があるなどの関連高校を含む)の生徒たちがグループとなって取り組む「農」や「食」に関するプロジェクトや課題研究を「全国高校生 農業アクション大賞」として支援・顕彰しています。
 農家の人たちなど地域と連携して実践する3か年の計画を募集し、毎年度15グループを認定。優れた実績を残したグループには、3年目に「大賞」や「準大賞」を贈ります。

研究の背景と目的

 健康志向の高まりで、豚の脂身を食べない人が増えています。精肉加工の際に廃棄される豚脂は熊本県内でも年間10t以上にのぼります。養豚プロジェクト班は「環境に優しい持続可能な畜産経営の構築」を目標に、食品廃棄物のみで豚を育てる「養豚のゼロエミッション」に道筋をつけてきましたが、その豚の部位が食品廃棄物扱いされている現実に直面しました。「命を余さず利用する責任が自分たちにはある」。生徒らは思いを固め、新たな取り組みに着手しました。

 豚脂の基礎実験を行い、㏗(水素イオン指数)と融点が人の肌に近いことが分かりました。そこで、最初はハンドクリームの製造を目指しましたが、常温での保存が難しく、失敗の連続でした。「製造には高度な施設が必要で、高校生には正直、難しい」という事業者の声を聞き、素直に考え直し、切り替えて挑んだのが洗濯用せっけんの開発でした。

 やるからには商品化を目標に、JIS(日本産業規格)適合を目指しましたが、こちらも最初は失敗でした。せっけん製造に重要な「鹼化けんか」が不十分なことが分かり、地元の基礎化粧品会社の指導を受けて、脂肪酸と水酸化ナトリウムの配合量を調整。80パターン以上の試作を重ね、最も洗浄力が高く㏗も人肌に近い割合を突き止めました。「純せっけん分95.7%」。JISに適合する豚脂せっけんの誕生です。

豚脂せっけんの開発に向け挑戦中

 市販せっけんの1.7倍の洗浄力があり、一方で、市販せっけんより10日早く微生物に分解される特性もあります。環境に優しい商品です。県の産業技術センターから「素晴らしい商品ですね」という評価をいただき、クリーニング組合からも「汚れがすごく落ちて使いやすい」という感想が届きました。同校のブランド豚「シンデレラネオポーク」由来の『シンデレラネオの輝き』と命名し、商標登録を行いました。

 原価約66円。定価200円。約600㎏の豚脂をせっけんに活用しました。ホームページで全国に商品をPRし、売り上げは3年間で150万円を達成。コロナ禍で仕事を失った熊本きぼう福祉センターに製造を提案し、これを実現させたほか、東アフリカ・ルワンダで支援活動をしている日本人養豚事業者との連携による現地での技術開発、スリランカ産ココナツオイルをフェアトレードで利用した化粧せっけんの開発など、生徒らの視線は世界にも向けられています。

 今春、卒業の岩村みのりさん(3年)は「実験は失敗の連続でしたが、決して諦めはしませんでした。私たちだけではなく、活動を支えてくれた地域の皆さんの協力の賜物たまものです。感謝したい」と話しています。

学校で『シンデレラネオの輝き』(洗濯用せっけん)と化粧せっけんを手に集合写真。
旗は販売会の開催時などで利用している。
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